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『最後の観覧車』中塚さおり

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「こいつさ、お母さん去年亡くしてさ、そっからずっと元気がないの。この中の誰か彼女になってなぐさめてやってよ」
 男女の飲み会の場は一瞬シンとなった。
 ヤスシは悪いやつではないが、時々デリカシーがないというか、ちょっと感覚がズレているのか? そんな話は出会った直後の私たちにいきなりすべきではない。そして、「ああ、そうか、あの時見た車椅子の女性がやはり彼のお母さんで、その後亡くなられたのか」と理解した。
 志郎は今どんな表情をしてるのだろう。ここからの飲み会の空気がどうなるかは、志郎の一挙手一同にかかっている。朋香は志郎にビールを注ぎながら、志郎の顔を盗み見た。志郎はコップを持ち上げると、静かに言った。
「……母親は、たぶん天寿をまっとうした系なんで。元気でうるさい人だったから、天国でもよろしくやってる系っすね。親孝行したい時に親はなしなんで、皆さんもお母さん大事にしてあげてください。うす。乾杯」
 ヤスシが涙ぐんでいた。
「俺、ママが欲しがってた洋服買ってあげようかな」
「おまえママって呼んでんのかよ、キモイな」
 ともう一人の男の子がヤスシに突っ込んで、
「ちげーよ、お袋だよ、お袋」
 とヤスシが慌てると、飲み会の空気は徐々にワイワイとした雰囲気に戻っていった。
 ヤスシが志郎に朋香を紹介し始めた。
「こいつ、朋香。こんな顔してっけど、女優のたまご。な?」
「うるさいわ。こんな顔って何よ、こんな顔って」
 やはりヤスシはデリカシーがない。ちょうど今日、密かに受けていた映画のオーディションに落ちたのだ。ムシャクシャして、ジョッキのハイボールを一気に飲み干してやった。

 飲み会が終わる頃、朋香はしたたかに酔っていた。だからかもしれない。帰る方向が一緒だった志郎の袖をクイクイ引っ張り、呂律が回らない感じでいった。
「エントリーナンバー17番。私、私、あなたの彼女に立候補してもいいれすか?」

 そこから何度かデートして、志郎の方から正式に告白してくれた。花火大会にも行ったし、おしゃれなカフェでパイも食べた。初めてのキスは春。志郎が庭師の仕事をしたという公園で、満開に咲いた梅の木の下でだった。
 ただ付き合ってからも、三年前に観覧車で会ったことは言えなかった。志郎はあまり弱みを見せない。実は泣き顔を知っているなんて言ったら、きっと嫌がるだろうから。

 

 朋香のお腹に赤ちゃんができて、二人は結婚した。生まれた娘に、志郎の母の名前をとって、小夏と名付けた。五歳になった小夏は今、デパートの屋上にある大きなトランポリンではしゃいでいる。

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