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『最後の観覧車』中塚さおり

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 ああ、なるほど、観覧車の色か。時々観覧車の色を指定してくる子どもがいるけれど、こんな大人でもこだわりがあるんだなぁ。
 青年は車椅子から母親らしき女性を抱き上げた。母親らしき女性は、ニヤリと笑って言った。
「今の母ちゃん、痩せて軽いからひ弱なあんたでも持ち上げられてラッキーね」
「うるせーよ」
 みたいな会話を交わしていた。女性をのせるのに補助した方がいいのかしらと思いながら、青い観覧車がくるとドアをあけた。ゆっくり動く観覧車に、まず母親を座らせたあと、青年も乗り込んだ。
「いってらっしゃーい」
 ふむ。金髪でガラは悪いけど、割と整った顔立ちの青年ではあったなと思いながら、二人が乗った観覧車が一周回ってもどってくる3分間、青年と母親らしき女性の物語を空想したりした。観覧車の上で、二人は何を話しているのだろう。
 二人が乗った青い観覧車が戻ってきてドアを開けようと構えていた朋香だが、あけられなかった。金髪の青年が、観覧車の窓におでこをはりつけて、泣いていたからだ。
「……」
 規則違反だが、そのままドアをあけず、朋香は二人を二周目に送り出してしまった。
「まあいっか。今他にお客さんもいないし」
 二周目の観覧車が戻ってきたとき、金髪の青年は、一周目より泣いていた。またあけられなかった。
 三周目の観覧車が戻ってきたとき、青年は何事もなかったように乗っていたので
「おかえりなさーい」
 とドアを開けた。
 赤い目をした青年は、観覧車からおり、母親を抱きかかえると、車椅子に乗せた。
「ありがとうございましたー。また来てくださいねー」
 と何事もなかったように声をかけた。
 青年は小さな声で、
「お姉さん、いい仕事しますね」
 とボソリと言った。朋香は観覧車乗り場のアルバイトを続けようと思った。

 

 
 朋香が彼と再会したのは、それから三年後だった。大学のクラスメイトのヤスシが商店街の居酒屋で、男女混合の飲み会を開いてくれた時だ。ワイワイやっているところに、作業着姿で遅れてきたのが彼だった。
 思わず「あっ」と叫んだ。髪は金髪でなく黒になっていたが、間違いなくあの時の観覧車の彼だった。
「え?何?おまえら知り合い?」
 ヤスシが彼と朋香の顔を交互に見る。
 当たり前だが、彼の方は朋香を覚えているわけがない。
「いや、なんでもない。人違い」
「なんだよそれ。あ、こいつね、志郎。俺の保育園時代からの幼馴染で親友。えらいぜ。俺らとは違って、もうバリバリ働いてっから。庭師よ、庭師。梅がいっぱいある公園あんじゃん?あそことかもこいつがバリバリ切ってるからね」
志郎が朋香の前に座った。なぜか胸が高鳴った。三年前、観覧車に乗ってましたよね、と聞いてみようかなと思ったら、ヤスシが言った。

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