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『最後の観覧車』中塚さおり

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「どうしたらいいって?」
「どうしたらいいっていうのは、ほら、俺が、龍の神様みたいに願いを叶える力があるって言ったら、母ちゃんは何を願う?」
 夏子は即答した。
「あんたが、仕事で一人前になること。あんたが、良き人生のパートナーを見つけること」
「いや、そういうのじゃなくてさ、なんか、ダイヤが欲しいとか、うなぎが食べたいとかさ」
「母ちゃんあんたの幸せ以外、望むものなんてないもの」
 涙をこらえるのに必死だった。時間が戻るなら、母親に言った数々の暴言を撤回できたらどんなにいいか。
 病院の屋上にでると、夕焼け空が広がっていた。
「あー、そうね、強いて言うなら、久しぶりにあんたと観覧車に乗りたいかな」
「観覧車……」
「デパートの上の。青いやつね、青いやつ」
 遠くでカラフルな観覧車が回るのが見えていた。

 

 
 夫と初めて出会った日のことを、朋香は今もハッキリと覚えている。正確に言うと、初めての日は、出会ったというか、見ただけだ。
十年前の夏だった。
 大学生になって最初の夏休みのアルバイト。朋香は駅前にあるデパートの屋上の観覧車乗り場で、お客様を観覧車にのせる仕事をしていた。
 サンサンと陽射しを浴びながら、シミができるのではと気になった。昔この街に、撮影所があったと聞いてから、なんとなく映画を意識し始めて、高校時代から密かに女優を目指している朋香にとって、直射日光は大敵だ。観覧車という響きに惹かれて始めたが、「しまった」と思った。三日目にしてこのアルバイトを辞めたいなと思っていた。

 暑い上に、時間が経つのが遅い。観覧車とはいえ、どこかの遊園地みたいにひっきりなしに人が乗りにくるわけではない。基本は暇である。あー、下の階の靴売り場のお兄さん、かっこよかったな。なんてことを思いながら、チケットを買った親子連れや子ども同士が観覧車に乗りにくると、笑顔で観覧車の扉をあけて誘導し、「いってらっしゃーい」と送り出した。一周回ってもどってきたら、笑顔で扉をあけて、「おかえりなさーい」と出迎える。

 初めてのアルバイトに、ひと夏の恋みたいなものも期待していた朋香だが、乗りに来るのは子どもを連れたパパママか子どもばかりなので、特に出会いもない。あー、失敗したー。と思っていたら、現れたのだ。同い年くらいの青年が。
 金髪で、もじゃもじゃした髪。年齢的に、母親だろうか。車椅子に乗った女性を連れて。青年はダボダボのズボンのポケットから財布を取り出すと、チケットを二枚買った。チケットを朋香に渡しながら青年は言った。
「青いので」
「はい?」
 思わず聞き返した。
「青い観覧車でお願いします」

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