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『最後の観覧車』中塚さおり

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 ある時、ヤスシから、パパとママとデパートの屋上の観覧車に乗った、自分は青が好きだから青い観覧車で、しかも三周した、空が近かったという話をされた。

 その日保育園に迎えにきた夏子に、志郎は「デパートの屋上の、かんらんしゃにのりたい」と言った。「空が近くなるんだって」と、ヤスシから聞いた観覧車の魅力を語った。
「そうなの。じゃあ、志郎の誕生日に乗りにいこうか」
 と応える夏子に、志郎は突然腹を立てた。
 なぜ自分はヤスシのように、ゲームを買ってもらえないのか。誕生日でないと観覧車に乗れないのか。ヤスシはいつでも乗っている。ヤスシには父親もいる。今日乗りたい。今日絶対乗りたいと全力で駄々をこねた。
 夏子は小さくため息をつき、志郎を連れてデパートに行くと、屋上の観覧車乗り場に行った。お母さんはここで待ってるという夏子に、一緒に乗りたいと志郎はスカートを引っ張った。仕方なく夏子は自分のチケットも買った。「青いのがいい」と言うと、観覧車乗り場のお姉さんが、青い観覧車がくるのを待ってのせてくれた。

 志郎は観覧車の窓におでこをつけ張りついた。観覧車のてっぺんで見る夕焼けは美しかった。自分が住んでいた街はこんなにも美しい場所だったのか。
 密室での夏子からは、やはり油とにんにくの匂いがした。
「僕はお母ちゃんのにおいが好きだ」と志郎は思った。

 その後も夏子は、志郎が保育園の帰りに観覧車に乗りたいというたびに、必ず連れていってくれるようになった。実は観覧車に乗った日の夜は、夏子のおかずはなかったのだと、そのくらいの経済状況だったのだと、夏子が笑いながら教えてくれるのは、志郎が高校生になってからだった。

 餃子屋で堅実に働いていた夏子は、店長にまでのぼりつめていた。少女のように可憐な時期もあったはずの夏子だが、街の空気に揉まれたのだろうか。志郎が高校に入る頃には、酎ハイ片手のオヤジ達も叱りつけるような、たくましい女になっていた。
 志郎が髪を金髪にして、悪友たちと夜の街をたむろするようになってからは、よく夏子と怒鳴り合いの喧嘩をするようになった。一週間前も、志郎は夏子に「クソババア!」と言い放ったばかりだ。

 元気で口やかましいクソババアだった母親が、あと三カ月しかこの世にいないという現実を、志郎は受け止め切れなかった。母親に、自分は何も返していないのに。時間はあと三カ月しかない? 頭がパンクしそうだった。母の顔を見て聞いたら泣いてしまいそうだった。だから病院の廊下で車椅子を押しながら聞いてみた。
「母ちゃん、俺は、どうしたらいい?」

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