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『日の出通り商店街』蒔苗正樹

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 日の出通り商店街では、ずいぶん子供連れを見かける。300m位の区間、一般車両は入って来れないようにしているせいで、子供と一緒に出掛けるのが安心なのだろう。特に昼過ぎから夕方にかけては色とりどりのベビーカーが見られ、立ち話をするお母さん達で、花が咲いたようなベビーカーの輪ができる。また、通りは駅と住宅地を結ぶ近道なので、夕方からは学校帰りの学生や、会社帰りのサラリーマンが子供連れと入れ替わり、女子高生がかたまりを作って賑やかにコロッケを食べ歩く様子が見られる。中には焼き鳥を食べ歩く強者の女の子達もいる。

 目的の平和精肉店が近づくにつれて、いつもと何か違っている感じがした。今ぐらいの時間だったらコロッケ目当ての高校生が店の前にたむろしているのに、そういった気配がない。不審に思いながら数十メートル歩き、精肉店の看板がはっきり見える前にその理由に気がついた。
 「…今日は月曜日だ。」思わずつぶやいた。
 さっきのカズシのメッセージは平和精肉店の定休日を伝えるものだったのだ。
 店のシャッターには、キリッとした字体の店名の下に〔月曜定休〕の少しかすれた文字があった。
 「えー、今日休みなんだ。」「今日はコロッケの気分だったのになあ。」高校生グループの残念そうな声が後ろを通り過ぎる。
 あきらめて帰ろうと思った時、コロッケの揚げた匂いを感じた。はじめは気のせいかと思ったが、どうもそうではない。匂いの漂ってくる店の横の狭い路地に入った。
 路地は人がやっと行き違うことができるほどの幅で、2、3歩進むとさらにコロッケの匂いが強くなった。晩御飯前の空っぽのお腹には、香ばしい油の匂いはなかなかのボディブローだ。
 「家になんかようかい?」予想しない声に、びっくりして振り返ると買い物袋を下げたおばさんが立っていた。
 「コロッケのいい匂いがして、お店休みだと思ったんですけど…。」
 「ああ、ゴメンね。そうなんだよ。今日は月曜だからねぇ。休みなんだよ。」平和精肉店のおばさんだった。
 「あんた、よくココらで写真とってるよねえ。」
 「は、はい。」
 「大成高校?」
 「そうです。」やりとりしながら、自分の行動がチェックされていたことにあたふたしていた。どうしてだろうと思うのと一緒に、何か迷惑かけるようなことをしたんじゃないかと慌てて記憶をたどった。

 辺りが急に暗くなった。もうそんな時間になったのかと思ったが、そうではなかった。湿っぽい空気から大きな雨粒が滴り落ちて間も無く、バラバラと音を立てて雨が降り出した。
 「あららら!あんた、大変だよ。ちょっと中に入りな。」おばさんは、ドアを開けて家の中に促した。
 おばさんの後に続いて、家の中に入った途端、何かのタガが外れたようにどっと雨が落ちてきた。ドアが閉まっても滝のような音が聞こえる。外から急に家の中に入ったせいで目が慣れず、奥のドアが開いて光が入ってくるまで、玄関は真っ暗だった。
 おばさんは自分でも頭を拭きながら、タオルを持ってきてくれた。
 「危なかったねえ。もうちょっと中に入るのが遅かったら、こんなんじゃ済まなかったよ。」

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