部員4人の写真部なので、3人の票を取り込めば話し合いは決定だった。
でも、ほんとうはカズシの怒りの元は政治や災害なんかじゃなくて、好きなクラスメイトのデート現場を目撃したことだって、僕は知っている。
「それで、シライ君はどうですか?」部長は、今だにみんなを苗字に君付けで呼ぶ。ちょっとしたよそよそしさは、馴れ合いになりそうな話し合いに酸素を送ってくれる感じがして好きだ。
「僕は…。まあいつものことだけど日の出商店街を撮りたいって思ってて。」その時、ヒロヤとカズシはそれぞれ、部長の後ろに掛かっている写真パネルをチラッと見た。
写真部の部室の壁には、先輩たちが撮影して大きな賞をとった作品がずらっと掛けてある。写真部の栄光の時代。中でも僕が好きなのは、たった今二人がチラッと見た作品だった。
入部の際の自己紹介で僕は言った。「部室に飾っているすごい写真を見て、写真部に入ってみたいと思いました。あっ、1年3組白井時生です。中でも日の出通り商店街の八百屋を撮影した写真がすごい良かったです。どう言っていいかわからないけれど、この写真、とにかくすごいです。こんなような、人の気持ちを閉じ込めたようなすごい写真を自分でも撮りたいです。」
その気持ちは3年生になった今でも変わっていない。<石井慎也作>とプレートがついている写真は、八百屋が親子で品物の準備をしているところを撮影している。日の出通り商店街の見慣れた八百屋の朝の風景だけど、そのいつもと同じことが、どうしようもなくいいなあと思えるのがすごいと思った。
すかさずカズシが言った「それさ、いいんじゃない、それでも。いつも撮影している商店街に、怒りの要素を加えればトキオの作品にも芯ができるかも。んーそうだな。あの肉屋のおじさんはどうだろ。いっつも不機嫌そうな顔でコロッケ揚げてるじゃない。きっといい感じの怒りが撮れるよ。」
カチンと来た。でも、カズシの言う通りだった。僕の写真には芯がない。部室の八百屋写真の影響から、写真部に入部して何度も商店街を撮影してきた。色々写真の勉強もして来たので、今や構図や色合いは自分でもいい線いってると思う。きれいな写真だという自信もある。ただ、どういう訳か僕の写真は決定的につまらないのだ。
ということで、部の決定に従い、不本意ながら日の出商店街、コロッケおじさんのいる平和精肉店に向かうことになった。
視線を感じて周りを見た。視線の発信元は思ったより低いところにあった。お母さんに連れられた3歳ぐらいだろうか。男の子がカメラをじっと見ている。
「カメラ好きなんですか。」お母さんに聞いた。
「そうなんです。カメラとか、機械みたいなのが大好きで、男の子ってそうなのかしらね。」
「写真撮ってあげようか。」レンズを向けると、男の子は小さく頷いた。
「じゃあ、ハイっ撮るよっ!」
男の子はシャッター音に満足したのか、にーっと口を横に開いて笑ってからバイバイをして歩き始めた。
「ありがとうございました。」男の子に引っ張られるようにして歩き始めながら、お母さんは言った。