「そうだよ。いつも通っている商店街だからね。綺麗にしないと。汚い商店街は嫌でしょ」
ハルカが、こくりと頷く。眠いのだろう。瞼が今にも閉じそうになっている。
「誰もいないけど、何時に集合なんだい?」
周りを見ながらミノルさんが問いかける。
「何時とか決まっていないけど」
「え? ゴミ拾いって、町の行事でしょ?」
「ううん。私がしたいだけ」
「たった三人で商店街のゴミ拾いをするのか?」
驚いたミノルさんを見て、つい笑みが溢れてしまった。
「三人でするわけないでしょ」
「それなら、どうするんだい?」
そういえば、祭りがある日はいつも仕事だったから、このゴミ拾いのことをミノルさんは知らないんだっけ。ここで真実を告げるのもいいけど、せっかくだし黙っていようかな。私から告げるより、実際に見てもらった方が早いし。なにより、困っているミノルさんの表情をもう少し見ていたいからね。
「まぁまぁ、慌てないで。もう少ししたら、わかるから。ほら、言った側から一人来たよ」
「おはよう。柊木さん。今年も早いですなぁ」
軍手をはめた田川さんが笑顔で挨拶をする。
「おはようございます。ほら。ハルカも」
「ほぉふぁほぉふぅほぉふぁふぃふぁふぅ」
眠気に負けたのだろう。かくんと首を傾げてハルカが挨拶をした。
「寝ぼけながら挨拶をしないの」
「まぁまぁ。子どもは、まだ眠い時間ですからねぇ。旦那さんもおはようございます」
田川さんの登場に呆気にとられていたミノルさんが、慌てて挨拶をする。
「どうして、ここに?」
「どうしてって、ゴミを拾いに来たんですよ。もしかして、旦那さんも寝ぼけているんですか?」
「どういうこと?」
助けを求めるかのように、ミノルさんが私に尋ねてくる。
「田川さん。ミノルさんは、ゴミ拾いが始めてなんですよ」
「あぁ、なるほど。それなら、もう少し待てばわかると思いますよ」
混乱するミノルさんを他所に談笑すること数分。
何かに気づいたらしく、ミノルさんが「あ……」と口を開いた。
ミノルさんの視線の先を見ると、人がこちらに歩いてきていた。それも一人や二人ではない。何十人もの人々が、各々談笑しながら向かってくるのだ。
「この人たちって……」
答えを求めるかのように、ミノルさんが私に視線を送る。ミノルさんが思った通り、彼らは町内に住む人たちだ。だから、見知った顔ばかり。私たちの隣に住む佐々木さんや肉屋の店主の河野さん。ハルカの友達であるカナちゃんも家族総出でゴミ拾いに来ていた。
「でも、町の行事じゃないんだろ? なのに、どうして?」
「決まっているでしょ」