「田川さん! おいしいたこ焼きをありがとう。それじゃあ、私たちはそろそろ行くね」
「……そうかい? それじゃあ、またねぇ。ハルカちゃん」
まだ聞き足りないと視線で訴えてくるハルカの手を握り、強制的にその場を後にする。これ以上、ここにいたら何を暴露されることか。考えただけでも恐ろしい。
足早に歩いていると、ハルカが風船つりの露店を見つけた。
「あれをやりたい」
お金を受け取ったハルカが、とことこと店に駆け寄り店主にお金を渡した。そして、風船を釣るための釣り針を受け取ってプールの近くにしゃがみ込む。狙いの風船でもあるのだろうか。なかなか針を通そうとはしない。
そんなハルカの背中が可愛らしくて微笑を浮かべながら眺めていると、ミノルさんがぽつりと呟いた。
「来て良かった」
「でしょ? ミノルさん。いつも仕事でお祭りに来られなかったもんね」
「うん。ハルカがこんなにも喜んでいるなんて知らなかったよ」
「今日は、今まで以上に喜んでいるみたい。きっとミノルさんと一緒にお祭りに来られたことが嬉しいんでしょうね」
「……そうなのか」
口を閉ざしてハルカを見つめるミノルさん。その表情は、どこか慈愛に満ちているように感じる。
しばらくすると、とことことハルカが水風船を片手に帰ってきた。
「はい。お父さん」
「僕に? いいの?」
「うん。初めてのお祭りでしょ。だから、私からのプレゼント」
「ありがとう」
「他にもね。お店があるんだよ。えーと、わたあめ屋でしょ。金魚すくい屋でしょ。焼きそば屋でしょ。他には……」
ハルカが、指を折りながら数えていく。
「それ以外にも、いっぱいお店があるの。だから、今日は私が案内するね」
ミノルさんの手を取るハルカ。そして、次の店へと案内を始めた。溢れるほどの満面の笑顔で。弾む声で。そして、スキップしそうなほどの軽快な足取りで。
もっとも、それはハルカだけではない。ミノルさんも同じだ。
「お母さん。どうしたの? 早く行こうよ」
「うん。すぐに行くよ」
ハルカたちに駆け寄る私も軽快なステップを踏んでいた。
翌日の朝。
寝ぼけ眼のミノルさんとハルカを連れて商店街に到着する。
思った通り、商店街にはゴミが散乱していた。
祭りの翌日は、いつもこうだ。一応ゴミ捨て場はあるのだが、それ以外の場所にも捨ててしまう人たちがいるようだ。商店街でもゴミ捨ての喚起をしているらしいのだが、この惨状を見るにあまり効果が出ていないのかもしれない。
「お母さん。今からゴミを拾うの?」