遠くから祭囃子が聞こえてくる。
子どもだった頃は、この音楽を聞くとよく駆け出したものだ。そのたびに母さんから注意されたのは、今では懐かしい思い出となっている。まさか、その私が母さんの言葉を借りることになるとはね。
「転んだら危ないから、走ったら駄目だよ」
「……わかった」
むぅと口を尖らせつつも、ハルカが足を止めた。その表情が、子どもの頃の私にそっくりで親子なんだなぁと改めて実感する。
「急がなくても、お祭りは終わらないからさ。ゆっくり行こう」
差し出されたミノルさんの手を、頷きながら握るハルカ。もう片方の手で私の手も握った。
そして、三人仲良く歩いて行く……わけないか。
当時の私と同様、ハルカも私たちの手を握りながら駆け出したのだ。
「走ったら危ないってば」
「手を握っているから転ばないもん」
当時の私と同じ言い訳をするとは。さすが、私の娘……て、感心している場合じゃない。怪我でもしたら大変だ。でも、私から言っても聞かないだろうし、ミノルさんは苦笑を漏らしているだけで注意しようともしない。
「僕たちがちゃんと握っていれば大丈夫だよ」
「それは、そうだけど……」
それでも、心配なのだ。万が一ということも考えられる。て、ほら。言った側から躓きかけたし。もっとゆっくり歩けばいいのに。
……当時の母さんもこんな気持ちだったのかな。
ハルカに引っ張られるように歩くこと数分。
ようやく、商店街に到着した。
普段以上の賑わいを見せる商店街。提灯やペナントで装飾された歩道には、焼きそばや綿あめ、射的におみくじ、金魚すくいなど様々な屋台が並んでいる。
その中の一つ、入り口付近にあるたこ焼き屋に一目散に駆け寄ろうとするハルカの腕を掴んだ。
「こら。人混みの中で走らないの!」
「だって、たこ焼きが食べたいんだもん」
「あのね、ハルカ。人混みの中で走ったら、人とぶつかるかもしれないでしょ?
その人が転んで怪我でもしたら、きっと悲しい気持ちになると思うの。ハルカも痛いのは嫌でしょ? だから、その気持ちがわかるよね」
「うん……ごめんなさい」