「友達になる!」
すぐにそう返事をした。誰かと近づくことがこんなにも嬉しいものだなんて思いもしなかった。友達という言葉がこんなにも幸せなものだと思いもしなかった。
「翼くん」
「なに?」
「君は、わたしだけじゃない。みんなを笑顔にできるヒーローだよ」
僕は夢見たヒーローになれたということなのだろうか。街の人たちを悪者から守る、かっこいいスーパーヒーローに。
「君がいるだけで、商店街のみんなは助けられてるの。だから、この街では誰よりもかっこよくてつよい、スーパーヒーローだ!」
美南はそう笑って、翼の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「そうだ、観覧者乗ろうよ」
翼は美南に手を引かれてついて行く。本当に友達と遊んでいるみたいだ。
観覧車に乗って、上から見下ろす景色にはしゃいだ。あれはなんだろう、あんなのあったんだね、と楽しく会話をした。翼にとって、友達と話す初めての経験だった。
観覧車を降りると、そこに由美が居た。翼は両手を広げて駆け寄る。翼を抱きしめた由美は、翼の背後で笑顔を見せる美南に微笑んだ。
「今日ね、僕ヒーローになったんだよ! 悪者倒したんだよ!」
翼は興奮気味にそう伝える。黒い悪者が居て、ブルーとグリーンも居て、怪物もいたんだよ、と。
「すごいじゃん! やっぱり翼はつよいね! でも、戦いに夢中でケーキ忘れてたでしょー?」
由美に指摘され、翼は正直に忘れていたことを告げた。
「よし、じゃあ今から買いに行こうか!」
由美が翼の手を繋ぐと、翼は持っていた剣を由美に渡し、空いた手を美南へと伸ばした。美南は翼の気持ちに応えるように、その手を繋ぐ。3人は並んで、商店街へと歩き出した。
商店街に入り、由美はお店の前を通るたびに店主たちへと頭を下げた。店主たちはみな、手を振り笑顔で見送ってくれた。
今回、翼をヒーローにするために協力してくれた心優しい人たち。この人たちがいなければ、きっと翼はまだ自分の殻に閉じこもったままだっただろう。そもそもこれは、創一が近々屋上遊園地のステージでヒーローショーをやる企画があることを聞きつけて来てくれたおかげでもある。創一はヒーローショーを、翼と見に行けることに喜んでいたが、由美はその衣装を使って、どうにか一芝居打てないかと考えたのだ。
翼に自信を取り戻してほしかった。他の子と違うからという理由で自分のことを嫌いにならないで欲しかった。夢を見ることを簡単にあきらめて欲しくなかった。台本を作り、吹き出しのボードを作り、事情を説明しながら商店街の人へ協力願いのチラシを配った。15分だけでいいからと、芝居のために商店街を通行止めにしてもらうことも頼んだ。こんな無謀で無茶なお願いにも、商店街の人々は誰も苦い顔せずに承諾してくれたのだ。翼のためになるなら、と。挨拶回りをしてくなかで、由美は翼が多くの人から愛されていることを知った。いつも何気なく会っている人々に勇気を与えていたのだ。普通の子と違っていても、翼が頑張って人とコミュニケーションを取ろうとしていたから。声は無くても、みながその気持ちを受け取っていたのだ。本当にヒーローじゃないか、と由美は誇らしく思った。