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『高田酒店』3丁目のタダ

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友達の連絡先は知っているのでいつでも連絡が取れるという自信があったけど、センセイと三田さんには「またここに来ます。」としか言いようがなかった。、

 店に通う後になって後から知った事だが、私が初めて店に苦情を言いにきた時、三田さんは思いつめた顔をして、この子大丈夫か?と心配に思って声をかけてくれたらしい。就職活動中よく落ち込んでいた私は、センセイと三田さんによくしてもらいいつも励まされた。本当に素敵な出会いだった。

 一年後、私は大学の友達に会いにA市を訪れ高田酒店に寄った。三田さんの自転車が店の前にあり、センセイも三田さんも元気だった。「働きだしたら、おごってくれ。」といいつつも、相変わらず働き出してからも三田さんはビールをおごってくれた。
「仕事はどうだ?実家には帰っているか?」
と聞かれ、私は二人に近況報告をした。その後、近所で地域のお祭りがあると連れて行ってくれた。ビールを飲んでやきぞばなどをおごってくれた。三田さんは「センセイの店もそろそろ代替わりや、気を遣って前ほど頻繁に通ってはないんや。」と話した。

 二年後、友達の結婚式にA市を再度訪れた。朝だったので、高田酒店はまだ営業しておらず、店の郵便受けにセンセイと三田さん宛てのお土産と手紙を郵便受けに入れようとすると、掃除をしようと表に出てきたセンセイに会えた。
「今年も会えましたな。元気にしてますか?三田さんは最近店に来てないね。あの人も忙しい人だから。」
と、センセイは少し悲しげな顔をした。私は月日が経ったことを感じた。

 四年後、私は実家に戻り転職した。A市に住む友達はほとんどいなくなったが、友達の出産祝いにA市に集まった。その時、高田酒店を訪れたがセンセイの姿はなく、息子さんからセンセイの体調がすぐれず入院中だと聞いた。近所の病院に一週間前に入院したそうだ。病院にお見舞いに行くと、センセイは点滴をしていたが、
「久しぶりですな。わざわざお見舞いきてもらってありがとう。大丈夫ですわ。」
と、お見舞いのお菓子を食べながら、初めて会った時のようにこっと笑った。

 六年後、出張でA市を訪れた。友達はもうここに住んでおらず会う相手はいない。夕方に高田酒店へ足を運んだ。良かった・・・店はまだある。しかし、センセイの姿はなく息子さんがいた。センセイは昨年亡くなったそうだ。息子さんが缶ビールを一本とおごってくれて、センセイの思い出話をしながら飲んだ。夏は冷房もなくて扇で仰いでも暑いから冷えたビールはびっくりするくらいおいしいし、冬はストーブ一台で皆で寒い寒いと言いながら電子レンジで温めたONEカップを飲むのが楽しかったこと。
 最後に、もう一缶ビールを買って店を出てこの町を歩いた。すっかり町の様子も変わり、観光している外国人も見かけるし、ゲストハウスやオシャレな店が増えた。高田酒店の向かえに位置していた靴の問屋さんはイタリアン・バルに変わった。周囲の店は変わったが高田酒店は今もここにもある。町も変わっていく。私はここには住んでいないし、友達も去り、人も移り変わっている。

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