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『高田酒店』3丁目のタダ

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「あれ・・・」
 自動販売機にお金を入れたのに缶が出てこない・・・。商店街の通りにある酒店の前の自動販売機で発泡酒の缶を買うつもりだった。
 当時、私は大学三年生でなかなかうまくいかない就職活動の面接の帰り道でイライラしていた。こんなむしゃくしゃした日に最悪・・・。 
 A市の主要な駅から近く、ビジネスホテルや居酒屋があり、昔ながらの雑貨の商店や問屋が並ぶ商店街。やや丸字のフォントに『たかだ酒店』と、横にジョッキビールの懐かしい感じのイラストが描かれた看板だ。店の前を通ったことはあったが、中に入るのは始めてだ。普段個人商店は入りづらいので入らないが、ムシャクシャしていた私は店に苦情を言うために入店した。店の冷蔵庫には、コンビニみたいに商品がいっぱい敷き詰められておらず、缶ビールや酎ハイが数本ずつ置いてある。地酒は所狭しと数多く並べられているが、瓶に埃がかかっており商品が売れているような雰囲気はない。商品名は手書きで書かれている。店主と思われる藍色のエプロンをして白髪で人の好さそうな七十代位のおじいさんがレジの前にちょこんと座っている。私が事情を説明すると、 
「すみませんね。今持ってきますね。」
と愛想よくにこっと笑った。そこで一気に私のイライラは落ち着いた。冷蔵庫から代わりの発泡酒を出すも、ぬるく冷えていない。
 店主の前のテーブルで瓶ビールをグラスで飲んでいる作業服を着た五十代位の気さくそうなおじさんが、
「こっちのほうが冷えてるよ。一緒にどう?」
と、声をかけてくれた。店主が冷蔵庫から冷えたグラスを持ってきて、おじさんが瓶ビールを注いでくれた。おじさんは、
「おじょうさんはここの近所のR大学の学生さん?」
「私は三田。こちらは、高田センセイ」
「センセイだなんて何をおっしゃる。教養はないですわ。おじょうさん学生さんですか?」
と、お客の三田さんは店主の高田さんに敬意を示し「センセイ」と呼んでいた。センセイはそう呼ばれて照れながら嬉しがっていた。私は大学生で就職活動中だと話すと、三田さんの娘さんも就職活動で大変だったという話してくれた。お会計の時、瓶ビールの「お金を払いますというが、三田さんは、
「いーよ。いーよ。またここで飲もう!」

 それから就職活動中、大学や下宿先のアパートで一人で過ごすことが多かった私は友達に連絡を取るのも億劫になり、企業説明会や面接の帰り道に高田酒店によく通った。夕方六時過ぎになると三田さんや時々違うおじさんのお客さんが来て、ビールや発泡酒を飲みながら立ち話をした。飾り気のない素朴な酒店なのでレジの近くには柿の種やチーズなどが小分けで一袋三十円等と手書きの値札がつけられ並んでいて、それを買ってつまみにする。三田さんは明るく社交的でよく話す方で、政治や最近の事件、家族のことも話してくれた。神戸出身の三田さんは当時橋下徹が大阪府知事になったことを喜び褒めて、時には批判したりしていた。センセイは積極的に話題を振ることはなかったが、いつもにこにこして話を聞いて、相槌をうっていた。三田さんは深くは聞いてこなかったが、「最近の就職活動は大変だよ。」と、時々さりげなく私に気を使い励ましてくれた。

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