車には繭子の3つ年上の恋人である尾ノ上和士も同乗していた。和士は総合重機企業の、新居浜工場に勤務している。もとは東京で就職したが、繭子が大学3年の春に転勤となった。話せる範囲で色々と案内する和士に、普段は口数が少ない進は、積極的に質問していた。とくにメンテナンスの重要性については、和士と大いに盛り上がっていた。
「大正時代にできたクレーンで、今も現役で動いているものがあるんですよ」
「素晴らしいね。製品は、出来上がって納品されて終わりじゃない。むしろ、そこから時が始まるんだよね」
そう言うと、進は感銘を受けたように頷いていた。そんな父の顔を、繭子は見たことがなかった。
「お父さんは、機械が好きなのね」
繭子がしみじみ言うと、進は静かに笑った。
進は口数が少ないうえに、表情が曖昧な顔をしている。同じテーブルで一緒に食事をしても、あまり会話が盛り上がらない。そのため、気付くと繭子の意識は過去に向いてゆく。進が仕事のことを質問してくれても、ただ間を埋めようとしているように感じてしまう。
機械の話にはあんなに興味を持っていたのにと、淋しさが募ってゆく。
翌日、進に対して繭子の苛立ちが爆発した。
原因は、一緒に母の墓参りに行く約束をしておきながら、とうとう日が暮れるまで進が仕事を止めなかったからだ。進が時計を好きなことも、仕事を大切にしていることも分かっているつもりだ。それに急ぎの修理に取り掛かっているのかも知れないし、突発的な問題が起こったのかも知れない。
けれど、何度繭子が声をかけても、進は時計からろくに顔を上げずに曖昧な返事をした。その度に、繭子はイラ立ちが募り、うとう夕方になると繭子は相変わらずにホールロックを覗き込んでいる進に、声を荒げた。
「行く気がないなら、最初からそう言って! お母さんの所には私1人で行ったのに」
進はのんびりと顔を上げると、ガラス棚の中に並んでいる時計を見て、驚いたように額に手をあてた。
「いやあ、悪いことをした」
「お父さんはよく、時間は人の命だって言うじゃない。それなのに、どうして踏みにじるの?」
進は申し訳なさそうに、でもどこかはにかんだような表情で繭子を見つめている。繭子は、実家に帰ってきたことを後悔していた。
大学卒業後、新居浜に就職したのには理由がある。もともとは東京で就職して、和士とは遠距離恋愛を続ける予定だった。家を出てからは、芙蓉子のお墓参りに1度も帰っていないことを気にしていた。昨年、ひょっこり進が新居浜を訪ねてくれるまで、繭子からも何度も連絡しようとして、結局できなかったのも同じだ。
繭子の感情は、芙蓉子の通夜の晩に戻っていた。
仕事で芙蓉子の死に目に会えなかったのに、進は通夜の晩にも1人で作業場に籠って仕事をしていた。その光景が繭子は忘れられない。昔から進は、アカの他人の時計修理に夢中になって、家族との約束などしょっちゅう忘れてきた。こんな日でさえ、そうなのか――。
「お父さん、どうして時計の修理屋さんなんかしているの?」