もはや見慣れた景色。だけど、どこかおっさんたちがよそよそしい。
「お、おぉ。にいちゃん、久しぶりだな。元気だったか?」
「あ、はい」
おっさんが困った顔に眉毛を歪ませている。
「あれ」
「あの」
同時に言葉がかぶる。
「あ、すまん。何だ?」
「かなさん、最近来てますか?」
意を決して尋ねる。
「それがな……」
アァアァ、嫌な予感しかない。時間、頼むから止まってくれ。
「結婚して、旦那と海外に行ったらしい」
「……」
気の抜けたビールを傾ける。
「まぁ、気を落とすなよ。今日は俺らが奢るからさ」
そのまま思いっきり飲み干した。やけに苦々しいし、夏はもうそこまで来ていたし、あいつは結婚間近の彼氏がいた。
クッソわかっていたんだ。何かそんな感じはしていたんだ。自分が勧めた本も映画も、何一つあいつは見やしなかった!
「あのビッチが!何が観覧車じゃ!」
何かが壊れてしまったように、多種多様な悪口がただ漏れる。彼女から教えてもらった本も映画も、全部自分の中から吐き出すように否定してやった。
飲めば飲むほど、全てが涙に変わって行くようだ。
ばあちゃんが背中をさすってくれている。
周りの視線がもはや、優しい。どこか、見守れている安心感があって、それがまた自分の中のタガを外して行く。
「行くか」
「そうだな」
遠くの方で、なにかそんなことを話している。
急に脇を抱えられて外に出された。
そこからそのままどこかに引きずられて行く。
「知らない人について行ってはいけない」
なぜか、小学校の担任の顔が浮かんだ。
そういえば、その時の担任と僕は同い年になっていた。
あの女の先生も、人生いろいろありながら、僕らに向かって言っていたのだろか。観覧車に乗ったのだろうか。切ねえ。
先生、人生を友達の友達以上の公開設定にしたら、こんなもんですよ。
最低で、最高ですよ。
ひどい頭痛に目を開けると、怪しげな黒いソファに座らされていた。
誰かがカラオケを歌っている。
「ママ、こいつフラれちゃってさ」
「あら、そうなの」
自分の親ぐらいの、ママと言われた女の人がおしぼりをくれる。
思いっきり鼻をかんだ。
「あの野郎、マジで」
もうさっきの店で悪口は言いつくし、もはや何も出てこない。
「ちょっと俺らが炊きつけちゃってさ」