「あんたらいつも若いのみると揶揄うんだから」
ふらつく手でタバコを取り出すと、ママが火をつけてくれる。僕はウゥウゥと唸りながらタバコを差し出す。
もう何もかもが衰退していた。
「まぁ、あんたもずっと泣いてないでさ。腐る程女はいるんだから」
「あの人は一人だけっす」
ママは笑いながらタバコを吸っていた。
「いっそのこと、告白しておけばよかったのよ」
「多分、フラてましたよ」
「そんなのやってみないとわからないじゃない」
「なんか、負けたみたいで嫌じゃないですか?」
おっさんたちもウンウンと頷いている。
「勘違いして、フラれて、バカみたいじゃないですか」
「みてみな、この馬鹿面」
おっさんたちは怒られた小学生のような顔をしている。
「バカだけど楽しそうでしょう」
「知らねぇよ」
バックから花束を取り出し、近くにあった花瓶に差し込んだ。
目の前注がれた焼酎を、一気に飲み干す。
苦い水みたいな味がした。
気づくと、外は明るかった。
やけに腰が痛い。
「大丈夫ですか?」
澄み切った空気を吸う。
目を開けると、ぼやけた視界に、影が動いた。
「あぁ、はい」
目を擦る。昨日のコンタクトが少しずつ潤いを取り戻す。
何が起こっているのか、周りを見渡す。
早々と通り過ぎる無数の足。
そうか、道路に寝ていたのか。
「じゃあ、私行きますから」
スタスタと影が歩き去って行く。
「すいません!」
ピタッと、怯えたように影が止まった。
「ありがとう!」
私は思いっきりの笑顔で手を振った。
「さよなら!」
背中に声を飛ばす。
もう最悪だ。
通勤前に一服していたサラリーマンが汚いものでも見るように僕を一瞥する。
最低だ。
振り返ると、モアイ像がいた。こちらを向いて微笑んでいる。
よくみると、渋谷のモアイ像とは違った。
そうか。
僕はくしゃくしゃになった青いパッケージを取り出して、火をつける。
名前も知らない人たちに唆され、名前も知らない女に恋をし、フラれ、名前も知らない人に慰められ、心配される街。
ここは、蒲田だったか。