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               国際短編映画祭につながる「ショートフィルムの原案」公募・創作プロジェクト 奇想天外短編映画 BOOK SHORTS

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『他人のいる町』円堂久遠

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「これ、目標に達していないのですが、なぜですか?」
 窓の外には初夏の訪れを告げるように、真っ青な空が広がっている。
 目の前のクライアントはまるでその青色すら憎んでいるかのような表情。
「申し訳有りません。けど、こちらに記載がある通り、徐々に最適化されて行くものでして、もう少し期間を見ていただけると。それは最初に申し上げたことですが」
 私は宥めるようにエクセルと戦った成果を見せる。並ぶ幾つものチャート。しかし、クライアントの顔は曇ったまま。
「と、とにかく、早く成果を出してください」
 パタン、とマックが閉じる。私はいそいそと荷物をまとめ、頭を下げ、部屋を出た。
 外に出ると、もう上着を着なくてもいいぐらいの気温になっていた。空調で管理されたビルにこもってパソコンを眺めている日々。休日も動き出すのは夕方から。こうやって昼間に出たことは久しぶりで、季節はもう夏に移っていくのだなぁ、と置いてかれている気持ちになる。
「もうお前も3年目だから、広告の運用だけじゃなくても営業もできないとな」
 ただ単に人が足りないと言えばいいのに。SNS広告の運用画面から広告を開いている時に上司からそう言われたのが1週間前。私が今いる会社はよくバナー広告で見かける「デジタルマーケティングで集客最大化!」をクリックした先にたどり着ける会社で、私はそういったバナーを所構わず出稿する部に属していた。
 広告を配信するターゲットを決め、広告の文章と写真を配置し、あとは定量的な結果を見て悪い広告は外し、良い広告にはさらにお金をかける。政界にもたどり着けず、永遠に終わらないルーティン作業。
 パソコン画面に向かい合って約三年過ごしてきた人間に、人間に向き合う営業なんてうまくできるはずがなく、それは流石に会社もわかっていて、今日みたいな売上が低いクライアントばかり任されている。引き継ぎも中途半端で、きっと営業が適当に切り上げたのだろう。私も哀れだが、クライアントも哀れだ。
 スマホを見れば、昼の5時。
 会社がある渋谷に戻って仕事をするには中途半端な時間帯。
 蒲田駅まで歩いている途中、公園ではランドセルを投げ捨てて子供達が元気よく遊んでいた。そうか、子供は公園で遊ぶのか、とふと当たり前のことに気づく。
 レール脇の道には、よく言えば渋い、悪く言えば古臭い店が立ち並んでいた。もうこの時間からでも飲んでいる人はいるらしい。店の中から活気ある雰囲気が所々漂っている。
 こんな時に、さくっと一人で店に入って一杯引っ掛けられる余裕のある大人だったらなぁ。
 そんな昔の映画に出てくるような昭和な大人に、少しの憧れがあった。
 ちょっとした罪悪感を感じながら、飲み干すビールは最高に美味しいのだろう。
 そんなことを思い出しながらぼんやり歩いていると一件、まるで廃墟のような店があった。
 スレた青い看板に、染みた木材。
 窓は煤けていて、店内のオレンジの光をぼんやりと映し出している。
 店の前で立ち止まった。

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