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               国際短編映画祭につながる「ショートフィルムの原案」公募・創作プロジェクト 奇想天外短編映画 BOOK SHORTS

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『他人のいる町』円堂久遠

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 彼女はタバコを吸うのだが、東急の上の喫煙所にいた。
 私は今まで吸ったことがなかったが、今は彼女の影響で吸うようになっていた。さすがに同じ銘柄は恥ずかしいので、好きなアニメのキャラクターが吸っている銘柄のものを。
「ねぇ、あの観覧車乗らない?」
「あれですか?」
 時間が遅く平日だからか、屋上にいる人の数はまばらだった。
「その時、彼女がなんて言ったかわかります?」
「なんだよ」
「『あの観覧車、いつも付き合う人と乗ってたんだよね』って」
「にいちゃん。それはもう」
 ニヤッとわらう。
「気があるよ」
「だよね」
 私もおっさんと同じような顔で笑っているのだろう。
「ビール頼んでいいか?」
「何杯でも」
 いやぁいいね若いって、とおばちゃんたちも遠い目をして幸せそうだ。

 「人生は、期待の斜め下を行くから辞められない」と言ったのは、著名人でもなく、銀行に就職した友達だ。
 順調に「付き合う」までのゴールを歩んでいたと思っていた煌めいた毎日が、少しずつ本来の地味な色合いに戻っていった。
 なんなら、もう半分ぐらいは付き合っているんじゃないかと錯覚していた私は、自分の妄想で溺れそうになっていた。
 既読スルーが増えるライン。
 知ってる?既読スルーほど様々な仮説が立てられる事象はこの世にないんだぜ。
 返信しようと思った時に、急に体調が悪くなったのか?
 スマホが壊れたのか?
 ただ忙しくて見れていないだけなのか?
 それとも自分のことを嫌っているというサインなのか?
 これだけ軽く論文が書けそうだ。
 ただ、ラインが返ってくるだけで、「あ、良かった!」と喜ぶほど、人間は簡単に堕ちて行く。そう、僕の名前はパブロフで、分類すれば人間より犬に近い。 
 そんな中、必死に取り付けたデートの約束は、二回もドタキャン。
 1回目は仕事が忙しい、2回目は体調が悪い。
 まぁそんなこともあるだろう。他の可能性を探す頭はアルコールでぶん殴った。
 しかし、いよいよぱったりラインの返信がこなくなった1週間後には、体は勝手に蒲田駅へ走り出していた。
 駅に降りてから、急にあの店に行くか迷う。行けばズバッと言われそうで怖かった。ただ、白黒はっきりさせるには行くしかなかった。あのおっさんたちだったら何か知っているはずだ、とも思った。
 街中をふらつく。ゲーセンに入り、コインゲームをしたら無駄に大当たりが出て、大量のコインを抱えてさらに不吉な気持ちになる。銭湯に入り、体を清め、一応コンビニでワックスを買い髪を整え、ストロングゼロを飲み、もし万が一のことを考えて、花屋でバラを買った。
 彼女の誕生日がもう少しのはずだった。
 バックに買った花を押し込み、店に入る。

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