「じゃあ、この店で。大体毎日この店にいるからよ」
そう言って、また笑いながら元の席に帰って行った。
「うわぁ、送っちまった。死にてぇ。ストーカーで捕まる」
昨日、おっさんに手渡されたラインのidの画面がスマホに映る。
結局、初めてあの店に入った時の記憶は幻か、ストレスによる幻影かと思っていたが、ぼんやりとした記憶を辿るとやはり、店はあった。
恐々と店に入ると、
「おぉ、待ってたよ、にいちゃん」
見覚えのある顔が近づいてきた。
まるで時が止まっているかのように、何もかも変わっていない店内には前回同様、奥の方でわらわらと群がっている。
「これだろ?にいちゃんが欲しかったの」
そう言って、差し出されたレシートの裏を見ると、明らかな女の文字でidが書いてある。
戸惑っていると、「ビールくれ!」とおっさんが叫び、前回と同じジョッキがテーブルの上に置かれた。
「まぁ、飲もうや」
言われるがままに乾杯する。
颯爽とビールを飲みきったおっさんから、
「頼んでいい?」
と言われたので、訳も分からず「はぁ」と答えると、
「ビールで。お代はにいちゃんに」
と勝手に宣言された。自動課金。
「あと一つお願いなんだけどさ。これはティームで頑張ったんだ」
口についた泡を拭き取りながら、後ろを振り返る。
「あいつらにもさ、一杯気前よく奢ってやってくれないか?」
「え?」
なぜか全員がハイタッチをしに席までやって来た。集団課金。ここは盗賊のアジトなのだろうか。
「これ大変だったんだぜ。手に入れるの。最初はすごい警戒されてよぉ」
しみじみ語る。
だろうな。
「どうやって教えてもらったんですか?」
恐る恐る尋ねてみる。
「どうだったけなぁ。どうだったけ?」
振り向いて聞くが、全員ぽかんとした顔をしている。
「ごめん、俺らボケちゃってさ。あんまり昔のこと覚えてないのよ」
心配そうな顔をしていたからか、
「大丈夫!にいちゃんがかなちゃんのこと気に入っているって言っておいたから!」
と、褒めてくれと言わんばかりにすり寄ってきた。
「え?!」
全然褒められないし、人との距離感とか、侘び寂びとか色々あるだろ!心で叫ぶ。
「大丈夫。女は結局ストレートが一番よ」