メニュー

  • トップ
  • 受賞一覧
  • 映画化一覧
  • 作家インタビュー
  • 公募中プロジェクト
  • 創作プロジェクト
  • お問い合わせ
               国際短編映画祭につながる「ショートフィルムの原案」公募・創作プロジェクト 奇想天外短編映画 BOOK SHORTS

\ フォローしよう! /

  • トップ
  • 受賞一覧
  • 映画化一覧
  • 作家インタビュー
  • 公募中プロジェクト
  • 創作プロジェクト
  • お問い合わせ

『他人のいる町』円堂久遠

  • 応募規定
  • 応募要項


 もう、初体験には十分だ。お腹いっぱい。けど、こんな量のビールはすぐに飲みきれない。ちびちびジョッキを傾けながら、スマホを開いて見る必要もないニュースとインスタを眺める。大学時代、食堂で一人飯を食べていた時を思い出した。
 やっとこさジョッキの半分がなくなって、あと半分だと気合を入れ直した時に、「こんにちは!」という声とともに、若い女が入ってきた。
「おー。やっときたか!」
「ごめんごめん。今日仕事が長引いちゃって」
 そんな軽口を叩きながら、その女は奥へと入っていく。
 ちらっと通り過ぎる時に、目があった。普通に恵比寿とかにいそうな人だった。そんな表現しかできないけど要は、この店に似合わない人だった。
「ビールでいいよね?」
「うん!」
 慣れた感じで店の最深部に消えていく。
「またこいつ、競馬で負けたらしいよ」
 客のおっさんが女に話しかける。
「また負けたのー。もうやめちゃえば競馬」
「でもねぇ。次は行ける気がするんだよなぁ」
「それ、こないだも言ってたよ」
 あはは、と女の笑い声が店内に響く。
 この店の常連なのだろうか。私は少し混乱する。スタバにいるならわかるが、この店でおっさん相手に談笑しているようなタイプには見えない。歳は私と同じかちょっと上ぐらいか。
 少しその人に興味が湧いて、イヤホンの音量を落とし、会話を聞きながらビールを飲む。幸いなことに、少しも減らない。
「そうだ、あたし、こないだ勧められた本読んだよ!面白かった」
 その本はだいぶ昔に流行ったやつで、私が好きな本だ。さらにイヤホンのボリュームを下げる。
「あとは最近だとあれも面白かったかなぁ」
 それも好きな本だった。あら?と思う。
「そうだ、私もこの人に勧められて宮沢賢治の詩集読んだよ。宮沢賢治ってあんな強烈なことも書いてるんだね」
「そうでしょ?銀河鉄道乗っているだけじゃないのよ」
 ついに、イヤホンの電源を切った。どれもこれも、自分が大昔、大学時代に愛した本たちだった。
 バレないように、妖怪たちの隙間から見える女の横顔を見た。
 伸びたまつげに、薄い唇。
 綺麗な人だった。
 胸が少しずつ高まる。
 話してぇ!
 声かけられてぇ!

3/10
前のページ / 次のページ

第3期優秀作品一覧
HOME


■主催 ショートショート実行委員会
■協賛 東急プラザ蒲田
■協力 蒲田西口商店街振興組合
■問合先 メールアドレス info@bookshorts.jp
※お電話でのお問い合わせは受け付けておりません。


1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
Copyright © Pacific Voice Inc. All Rights Reserved.
  • お問い合わせ
  • プライバシーポリシー