戻ってくると良子さんと智美さんが来てくれている。
「あ、どうも」
「昭雄さん……今の見てたわ」
目に涙を溜め、そっとわしの手を握る良子さん。その隣でシクシクと泣く智美さん。
「本当に……何て言ったらいいか」
「弘江と仲良くしていただき、ありがとうございました」
「こちらこそ……ありがとね」
我慢しきれずに泣き出す良子さん。
「弘江の顔、最後に見てってください」
良子さん達の少し後ろに綾乃ちゃんと隆司くんの姿が見える。向こうもわしに気が付き、そっと頭を下げる二人。
そこに小さい女の子が入って来る。
後ろの方で「麻里ちゃん! 」とお母さんが声をかけている。あの人は確か、弘江のパート先の人だったか。
麻里ちゃんは弘江の棺桶の前で立ち止まり、遺影を眺め母親に大きな声で伝える。
「何でこのおばちゃん、ここで寝てるの? さっきこの家の前でニコニコ笑ってたよ」
少しざわめく弔問客達。
わしはしゃがんで麻里ちゃんの手を取る。
「ありがとうね……弘江はおっちょこちょいだから、亡くなった事気づかないで、みんなを出迎えているんかな」
麻里ちゃんの手を引き母親の側に連れて行く。
「教えてくれてありがとうね」
と、麻里ちゃんの頭を撫でる。
母親はしきりに謝っている。
綾乃ちゃんを見ると、わしに親指を立てて少し微笑んでいる。
隆司くん達がご焼香をあげてくれている。
そこに隣の部屋から酔っぱらった男性が泣きながら入って来る。
「なぁんでだよ~! なぁんで弘江さんがぁ~。俺、すげーお世話になって……なぁんでだよ~」
泣き声と相まってほぼ何を言ってるか聞き取れないが、悲しんでくれているのは分かる。
わしが立ち上がった瞬間、隆司くんが立ち上がり、その男性の両腕をしっかりと掴む。
「お気持ちは分かります」
隆司くんはふり絞るように声を出す。
「だけど……お葬式というものは人生最後の……人生最後のお祭りです。弘江さんの最後のお祭りを優しく温かく見守りましょうよ! お願いします!! 」
相手の男性の目をしっかりと見て、大きな声を出す隆司くん。
その男性はその場に泣き崩れる。周りの人が介抱しながら隣の部屋へと連れて行く。
わしは隆司くんの背中をポンと叩きお礼を言うと、やはりあの照れ臭そうな笑顔を見せる。
たくさんの人が弘江との別れを惜しんでいる。わしらの同年代、若い人や綾乃ちゃんら高校生もちらほらといる。この街の多くの人が弘江を愛してくれたんだなとぼんやり思う。
それにしても腹減ったな。
台所にある葬儀屋さんが手配してくれたお寿司をつまみ驚いた。
めちゃくちゃ美味しいのである。一体どこから手配したのだろうか。
もしかして「うまい」ってこの事なのか? そう考えつつもう一貫口に入れる。
次の日。