いつからだろう。
秋という季節はこんなにも引っ込み思案だっただろうか。秋の存在感が年々薄れていっているよう感じる。
長ネギやニラ、豆腐に卵のパック、魚の切り身の入った買い物袋を片手に商店街モールを歩くわしの額に、汗がにじみ出る。
いつ来ても、店と店の間にガチャガチャと無遠慮に停められている自転車。綺麗に整えられたモールのすぐ横に、飲み屋がひしめく通りが昔と変わらず存在している。
マンションがどんどん建ち、風景が変わっていくが、ここに住む人々の気質みたいなものは相変わらずな気がする。人懐っこいというか。そういう人がこの街に集まるのか、この街がそうさせるのか。
家の前に着き玄関を開けようとすると、中からお経が聞こえ、思わずため息が漏れる。
廊下にテーブルやソファが出されており、大音量のお経に弘江の笑い声が響いている。
家具が出されがらんとした居間でCDラジカセから流れるお経の中、高橋さんと談笑している弘江に話しかける。
しかし、お経の音が大き過ぎて聞こえない。
少し声を大きくして話すがやはり聞こえていない。
わしは舌打ちをし、ラジカセを止め話す。
「本当にやってんのか」
弘江は「ああ、そう言ってたのね」という表情を浮かべ、さも当然のように答える。
「あなたが帰ってくるの遅いから、先に始めたわよ」
買い物を頼んだのはそっちなのに、なぜ非難めいた事を言われなきゃいけないのか。
「本当にやる意味あるのか? こんな、葬式の練習なんて」
「あるわよ。あなたが死んだら私が喪主やらないといけないんだから」
急に縁起でもない事を言い出す。
「もう70過ぎたら立派なおじいさんよ。いつお迎え来るか分からないんだから」
4つしか歳が変わらないんだから、そっちだって立派なおばあさんだろうに。
「2丁目の佐々木さん、旦那さんが亡くなった時に結構グダグダだったじゃない」
手で口を隠しているが丸聞こえである。
「ああなるのだけは避けたいのよ。あなたも嫌でしょ」
そりゃ来てくれた人にグダグダなんて思われたくはないが。
「だからこうして、今までに8回もお葬式を挙げて何でも知ってる高橋さんをお呼びしてるんじゃない」
「昭雄さん、今日はよろしくね」
しっかりと喪服を着こんでくる辺りにやる気が伺える。
「すみませんね、変な事につき合わせて」
「いやいや。これは素晴らしい試みですよ。