やっぱりいいお葬式っていうのは無駄がなく、スムーズにお悔やみ申し上げれるのが一番大切だから」
スムーズなお悔やみという言葉に違和感を覚える。
「喪主の中の喪主、高橋さんに任せればバッチリよ」
弘江は意気揚々としている。
しかし、急にお葬式の練習がしたいと言い出し、周囲にも声をかけていたが、どこまで本気で、どこまでが冗談なのか。
弘江はわしから買い物袋を取り、台所で豆腐や卵を冷蔵庫にしまいながら話してくる。
「ほらあなた、早くそこの棺桶を設置する予定の所に横になってよ」
これだ。一番腑に落ちないのはこの事なのだ。
「あのな……俺が先に死ぬっていう前提もどうかと思うぞ」
何の相談もなく自分が先に死ぬと決めつけられてはいい気はしない。
しかも棺桶設置予定の所に「出来るだけ安めのやつ」と書かれた紙が貼ってるのも腹立たしい。
弘江は驚いた様子で台所から顔を出す。
「なによ。あなた私より長生き出来ると思ってんの? 図々しいわね~」
呆れ顔のお手本のような呆れ顔だ。
わしが反論しようとするのを高橋さんが遮る。
「まぁまぁいいじゃないですか。弘江さんが練習したいって言ってるんですから」
「それは……そうですけど」
どっちが先に死ぬかで言い合いをするのも馬鹿らしい。
弘江は指を差しながら確認をしている。
「え~と、この人の死亡届けを提出して、火葬許可書を貰った。で、住職に連絡して納棺も済ませたって所までやったわね」
「そんなところから練習してんのか」
「忘れないように、ここに全部書いてるのよ」
弘江は得意気にメモ帳をパタパタさせる。
「どうせそれをしまった場所を忘れるくせに」
と嫌味を言ってみたが、弘江は「ふん」と鼻を鳴らしただけだった。
高橋さんが「ハイハイ」と言いながら手を叩く。まるで授業中にふざけている生徒を諭すようだ。
「いいですか、葬儀屋は私のお勧めのところがありますから。早い、安い、うまいところです」
早くて安いのは分かるが「うまい」というのはどういうことだろうか。
「あの、うまいってなんですか」
弘江も気になったようである。
高橋さんは意味深に微笑む。
「それはね、その時になったら分かりますよ」