「太田様、ご出棺の準備整いましたので、参列者の方々へご挨拶お願いします」
恰幅のいい葬儀屋がわしを呼びに来る。
わしの手には弘江の遺影。
「はい……分かりました」
表に出ると、多くの参列者の方々がいる。
高橋さんと目が合うと、口パクで「がんばって」と言ってくれている。
恰幅のいい葬儀屋さんに促される。
「では、お願いします」
わしは大きく深呼吸をして話し始める。
「……え~、本日はお忙しい中、妻、弘江の葬儀にご会葬くださり、誠にありがとうございます」
良子さんや智美さん、綾乃ちゃんに隆司くんも見守ってくれている。
「弘江は……本当に抜けてると言いますか、新婚旅行の場所を勘違いしてるし、いつも突拍子もない事をします」
弘江との思い出が蘇る。
葬式の練習でみんなに囲まれ大笑いする弘江。
「私は本当に口うるさく、妻に小言ばっかりをいう夫でした。何をしても文句を言うかムスッとしてるか」
居間で食事しながら大笑いしている弘江。
「でもあいつはいつも笑わそうとしてくれるんです。どんなに大変な時でも笑顔を絶やさない妻でした」
温泉で転んでお尻に大きな痣を作り痛がっている弘江。
「いつもバカな事をして、私に怒られて……私はそんな……そんな二人での生活が大好きでした」
習っているフラダンスを披露している弘江。
「いつも側にいてくれました。子供がいなくたって、ずっとこんな私の側にいてくれました……弘江、本当に……本当にありがとうな」
病床の中でもわしに笑いかける弘江。
「そしてみなさま、生前賜りましたご厚情に深く感謝を申し上げてご挨拶とさせていただきます」
みんなが泣きながら拍手してくれている。
遺影の中で、誰よりも大きな笑顔をしている弘江に、拍手はいつまでも鳴りやまなかった。
その日の夜。
「おい。やっと全部終わったぞ」
居間の机に、弘江の遺影と覆い袋に入れた骨壺を置き、一人で熱いお茶を飲んでいる。
「全くお前は……医者に聞いたぞ。お前、俺に黙ってたんだってな。本当は倒れる2ヶ月前に分かってたそうじゃないか。肝心な事は何も言わないで……わしが困らないようにと葬式の練習までして」
お茶をすする。
「その甲斐あって、みんながなんの問題もなく、スムーズにお悔み申し上げてたって高橋さんに褒められたよ」
またお茶をすすり、大きなため息をつく。
「随分冷え込むなと思ったら、少し降ってきやがって、帰りにうっかり転んで尻もちついちまった。あ~イテテ……しかし、葬式までは練習したが、その後の事は何も練習してないからな……どうしたらいいのか」
弘江のメモ帳の最後に、弱々しい字で「あなた ありがとう」と書いてある。
「こんな事まで……」
気が付くと涙が溢れており、ぽたぽたと机に
落ちる。ダメだ……止められそうにもない。
「なぁ教えてくれよ。この後、わしはどうしたらいいんだ? なぁ弘江……それにしても……尻が痛ぇ……痛ぇよ……」
わしの嗚咽だけが家に響いている。