というわしの言葉は無視して、すぐに先生モードに切り替わり、張り切る高橋さん。
「それでは出棺の準備が整い次第、葬儀屋の者が喪主に声をかけます」
良子さん達四人は並ばされ、わしは相も変わらず棺桶設置予定場所に寝転ぶ。
「よろしいですか。では、お願いします」
もう歌謡ショーで観る往年の司会者ばりだ。
少し緊張した様子の弘江がメモ帳を見ながら話し始める。
「本日はお忙しい中、夫、昭雄の葬儀にご会葬くださり、誠にありがとうございます」
弘江の後ろ姿を見上げ、わしは思う。
わしと弘江は正反対の性格で、弘江はいっつも笑っており、何かを真剣に悩むところなん
て見た事がない。だからこそ、子供がいなくとも長い間ずっと夫婦でいれたのかもしれない。
「仕事仕事の人でございましたが、定年後はよく二人で旅行にも行くようなりまして。三年前には新婚旅行と同じ所、大分の別府温泉に行って」
「おいおい違うだろ。新婚旅行は熊本の黒川温泉で、別府は去年だよ」
「夫は露天風呂で転んでしまい、お尻に大きな痣を作りまして」
「嘘つくなよ。それお前だろ。お前が転んで、尻が痛くて寝返りがうてないって言ってたんだろ」
弘江は振り返り怒る。
「ちょっと黙っててよ。あなた今、死んでるんだから」
「適当な事ばかり言うからだろ」
高橋さんに「シーッ」とやられる。
「本当に口うるさく、私に小言ばっかりをいう夫でした。何をしても文句を言うかムスッとしてるか……でも時々笑うんです。顔をクシャっとして笑うんです。私はその笑顔が見たいから、またいつものようにバカな事をして夫に怒られる……そんな二人の生活、私は大好きでした。いつも静かに見守ってくれている……子供が出来なかった私を、ずっと見守ってくれてました……あなた、本当にありがとう。そしてみなさま、生前賜りましたご厚情に深く感謝を申し上げてご挨拶とさせていただきます」
静寂した間の後、一斉にワッと拍手が鳴る。
高橋さんが弘江に握手を求めながら。
「素晴らしい!本当にいいご挨拶ですね」
「弘江ちゃん、感動したわよ」
そう言う良子さんの横で泣いている智美さん。
「めっちゃいいじゃん! 超泣ける」
と弘江の腕に抱きつく綾乃ちゃん。
隆司くんは言葉にする代わりに、これでもかと拍手している。
「いや~、やっぱり緊張するもんね。本番はメモ帳見れないんでしょ。出来るかな」
「きっと昭雄さんも草葉の陰で喜んでるわよ」
と泣きながら言う智美さんに「まだ死んでませんよ」と言うが、全く届いていない。
しかし、あいつはよくこんな事を本人を目の前にして言えるな。恥ずかしくないのか。わしなんて照れくさくてかなわない。
「さぁ! これでいつ本番が来ても大丈夫よ。 葬式なんて簡単簡単! 」
そう言う弘江を中心に、みんなが笑っている。
三ヶ月後。