弘江は隆司くんの両腕を掴み話しかける。
「お気持ちは分かります。だけどお葬式というものは人生最後のお祭りです。この人の最後のお祭りを優しく温かく見守りましょう。ね」
隆司くんは弘江に圧倒され何度か頷いている。
「はい! そこまで」
なんかの師範代の様な掛け声の高橋さん。
「弘江さん、完璧じゃないですか。特に、お葬式は人生最後のお祭り。いい言葉ですよ」
「そうよ。素敵な言葉ね」
良子さんが感心している。智美さんもその横で大きく頷いている。
「私もね、次に喪主やる時に使わせていただきますよ」
高橋さん、まだ喪主をやるつもりなのか。
「映画かドラマだかで言ってたの覚えてたのよ。咄嗟に出てくるもんね」
「喪主の才能があるんじゃない」
智美さんが訳の分からない事を言う。何だ?
喪主の才能って。
「まぁこの様にですね、色々な弔問客が来られますが、慌てない様に」
まず本当にこんな弔問客いるのか。
「喪主はとにかく、多くの弔問客がスムーズにご焼香出来るように心がけてください」
「分かりました」
弘江はメモ帳に書き込んでいる。
「ここからは、喪主はそんなに面倒な段取りはないですから」
「はへ~、そうなんですか」
と素っ頓狂な声を出し高橋さんを見る弘江。
「ええ。次の日の告別式も同様に、住職と弔問客への心配りが一番大切です」
「心配りが大事と」
ぶつぶつ言いながらメモ帳に書き込み、そこに線を引いている。
やっと終わると思ったら、高橋さんが急に「あ! 」と手を叩く。
「そうだ、最後の出棺だ。この時の喪主の挨拶は重要ですよ。ここが決まると決まらないとでは大違いです」
智美さんが激しく同意する。
「そうよね~。あれによって霊柩車を見送る側の態度も変わってくるわよね」
そうかなぁ? とわしは首をひねる。
良子さんも「そうそう」と頷いている。
弘江はパラパラとメモ帳をめくり、最後の方のページを出して。
「それは大丈夫よ。もう考えてあるんで」
メモ帳にびっしりと何やら書かれてある。
「いくらなんでも早すぎるだろ」
と驚くわしに、弘江は「やれやれ」という勝ち誇った表情を見せ。
「いざその時になって、あ~とかう~とか言いよどむのは格好が悪いでしょう。だから今から準備しとくのよ」
「いやあ、素晴らしい心構えですね~」
パチパチと拍手する高橋さん。
「そうですか?」