「そんな露骨に、でも通じたんだ。うれしい、ありがとう」
里華が土産を喜んでくれたことだけでなく、どうやら自分たちが通じ合っているということにも、裕樹は嬉しくなった。
裕樹は年末年始を実家で過ごしていたためその間は里華と会えなかったが、仕事始めの職場帰りにまたあの雷おこしを今度は4袋持って彼女の店に行った。
「今日はたくさん持ってきたよ」
「わぁ、ほんと、いっぱいある。この間のは速攻でなくなりましたよ。今日のもすぐなくなりそう。うれしい、ありがとう」
「僕たち、ほんとに通じているんだろうね。何か感じる?」
「私がそっちへ行ってるんだと思う」
「やっぱりそうか。このところ一人でいてもいつも里華さんと合体してるっていうか、混ざってるっていうか、そんな感じ」
「おもしろーい、フフフフ」
裕樹は何やらとても不思議な気分になった。自分と親子ほどの年齢差があるこの女性が自分にとって本当に特別な相手であるなら歳の差なんてどうでも良い、このままもっといい仲になりたいと思った。でも彼自身の現職での任期満了が3月末に迫っている今、人生は皮肉だなとも思えた。今、世間で騒がれているいわゆる「雇い止め」の問題によって、彼自身も4月以降に今の職場に居続けることはできない。そのため、1年前から就職活動を続けているが連戦連敗となっていて次の職場がまだ決まらない。東京で仕事を継続できなければ実家に帰ることも考えなければならない。せっかくこれ以上はないと思える女性と仲良くなったのに、近いうちに別れなければならないかも知れない自分の境遇を考えると裕樹は悲しくなった。でもそのことを今から里華に言いたくはかなった。もう少し就職活動をしてみた結果、本当に東京を出ることになったら彼女に伝えようと心に決めた。
2月になり、デパートはバレンタインデーに向けての販売体制で大忙しである。毎年2月は1年のうちで売り上げが最も下がると言う人もいるが、その分バレンタイン関連の販売ではデパート側にもかなりの力が入っている。この時期、チョコレートを介して人と人との新たな関係が始まることもあるから、単にチョコレート菓子を売るだけの商戦ではない。客に喜びを与えることができれば、来年もまたここで買ってくれるかも知れないからだ。しかし里華の店は和菓子店であるためチョコレートの取り扱いはなく、他の洋菓子店に比べてこの時期はいささか静かである。客もあまり多くないだろうから里華とゆっくり話もできるだろうと考えていた裕樹だったが、2月に入ってから店頭に里華の姿を見かけることがなくなった。1月の終わりに用事で午前中にデパートに行ったとき、朝から店に出ていた里華と話したのだったが、顔は笑っていても何やら悲しそうな目をしていたのが非常に気になった。それが2月になって、店頭に里華の姿を見かけなくなった。
なぜだ、異動でもしたのかな、自分がしつこく里華に会いに行ったから上司の逆鱗に触れたのかな、などといろいろ考えながら、かといって店員に、
「岸本さんはお休みですか」