などと聞くこともできず、煮え切らない悶々とした気持ちを抱えたまま連日仕事帰りにデパートへ見に行った。以前から頻繁に出入りしていたデパートだが、連日同じ場所を通れば変に思う店員も少なくないと思われる。でももうそんなことはどうでも良くなっていた。ここ何ヶ月かの間、裕樹にとって最高の楽しみでもあり生き甲斐にもなっていた里華の姿が消えてしまったのだ。しかも悲しいことに、彼女に連絡を取る方法が現時点では全くない。唯一のつながりは彼が彼女に渡した名刺に書いてある個人用のメールアドレスだったが、そこに彼女がメールを書いてくれるかどうかは彼女次第であって、裕樹にはもうどうすることもできない。万事休すだ。
そうこうしているうちに、2月の下旬には裕樹の実家にいる母親が一ヶ月ほど入院したため、彼は残った有給休暇を使い切って東京を離れ、実家に戻っていた。その間に、現職の大学で「雇い止め」の壁を乗り越えて勤務継続をということで動いていた人事案件も断念ということになり、いよいよ実家に戻ることが決まってしまった。つらく悲しいことが一気に降りかかってきた裕樹だったが、これも運命なのか、自分が引き寄せた結果なのか、いずれにしても受け入れるしかなかった。
4月になって裕樹は地元に戻って母校の大学に職を得て働き始めていた。東京と同じように彼の地元にも大きなデパートはあるし、里華の会社も販売コーナーを出している。しかしその店を眺めても、いるのは別人ばかり。同じ制服を着ていても、誰よりも会いたい彼女はそこにはいない。里華の居場所を会社に問い合わせたところで個人情報保護が重視されている昨今、そんなことを教えてくれるわけはないし、全国のデパートを探して回ることもできない。
5月のゴールデンウィークに、裕樹は東京の下宿を引き払っていよいよ引っ越しをするために上京した。引っ越し業者に荷物を託し、マンション管理会社の職員に部屋の鍵を渡して下宿を出たあと、彼は里華との楽しい時間を過ごしたあのデパートに向かった。おそらくダメだろうと諦めてはいたが、万が一ということもある。彼女の姿を求めて彼は急いで電車を乗り継ぎ走った。でも売り場に着いてみると、やはりダメだった。里華が立っていた店頭には見慣れた制服を着た女性店員が今日は4人いて忙しそうに接客や伝票整理などの仕事をしていたが、4人とも別人だった。その店は忙しい時間帯でも4人体制だったから、今日も里華はいないのだ。裕樹は潔く諦めて東京をあとにした。
連休が明けていつもの労働の日々がまた始まった。でもなぜこんなことになってしまったのかと、裕樹はここ半年間に起こった数々の楽しいこと、悲しいことを振り返りながら、いつかきっとまた里華に会えるという変な安心感もある複雑な心境で、また以前と同じように職場と実家の往復を繰り返していた。そして、仕事帰りに時々駅前のデパートでうろついてささやかな気晴らしをしながら、
「里華、今どこにいるの?」
と想うのだった。彼女と交わしていたテレパシーがまた通じてくれることを信じて。