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『受験前夜』小川貴之

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「さっきの菓子折り、なに?」食べられないと気になる。
「近所に栗のお菓子の専門店ができて」
「へえ」
「お母さんが買ってきた。まあ、おいしいかどうかは知らないけど」
 だいたい姉が買ってくるわけがない。
 焼肉店に着くと二人だけで大食い大会をしているみたいにたっぷり食べた。明日は試験だというのに酒もしこたま飲んで、姉はへべれけの一歩手前だった。
 途中からどうしてその話になったのか忘れたが、姉は、会ったこともない四階の弥生さんがとても気がかりだといいだした。きっと、布団の話を知ったら気落ちするに違いない、息子さんが布団の話を弥生さんに伝えないことを願うばかりだというようなことを熱弁して、
「でも、たぶん息子はいっちゃうんだよ」と悲しそうにいった。「娘だったらいわないかもしれないし、息子のお嫁さんも、きっといわない」
 理屈がわからない。
「男だといっちゃうってこと?」
「ちがうちがう、息子だから」
「んー」わからない。
「孫だったら、たぶんいわない」
 そういうものだろうか。息子は親のことを気遣えないといわれているみたいで、なんだか解せない。世の中の息子代表として反論しておきたい。
「息子はいってしまうかもしれない。でも、事情を説明して弥生さんの心配を極力減らすと思うな」
「そうかもしれないけど後の祭りだわ」
「うーん」もう反論はよそう。
「いわないほうがいいこともあるのよ」といった姉は、最後は自分に言い聞かせているような口ぶりだった。あるいは、これまでいろんなやんちゃをしてきたがそれにはいくつもの事情が隠れているんだよ、といいたかったのかもしれない。僕は僕で、そんなこと知らんよ、と返したかったが、そのときはなぜか言葉を飲み込んだのだった。
 家に戻って姉をベッドに寝かせ、僕はソファで横になる。普段寝ているベッドよりもソファのほうが暖かくてびっくりする。姉の寝息を聞きながら、焼肉店での話を反芻してみようかと思ったが、すぐに寝てしまった。

 翌朝、目が覚めると、出かける支度を済ませた姉が慌てて洗面所から出てくるところだった。
「もう時間、ヤバいわ」
 あれだけ飲んでまともに起きられるだけすごい。入れ替わりで顔を洗いに行く。姉は慌ただしくリュックを背負って玄関に向かったが、また戻ってきてこちらを覗き、
「ちょっと合格してくるわ」といった。
 僕はもごもごと歯みがきをしながら、がんばっての代わりに手を軽く上げた。
 姉が出ていったあと、しばらくして携帯電話が鳴る。大家さんからだった。弥生さんの息子からではなく、弥生さん本人から連絡があって、申し訳ないとおっしゃっていたとのことだった。やはり息子は布団の話を伝えてしまったのだ。
「それで、車の修理は見積もりがわかったら私にいってくれればいいから。あと申し訳ないんだけど、布団は畳んでうちまで持ってきていただける?」

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