「わかりました。いろいろすみません」ご面倒おかけしますとお辞儀する。
「いえいえ、こちらこそ。あと、よかったらそのときにお姉さんも一緒に連れていらっしゃい」
そういえば、そんなお誘いもあったのだった。焼き肉と酒ですっかり忘れていた。大家さんの声が頭に響いて、しんどい。
「お気遣いいただいてすみません」
「昨日は焼き肉でも食べた?」
「はい」
「あら、本当に」
はて、焼き肉の話までしただろうか。
「モンブランクッキーおいしかったわ。で、中にお母様からの手紙が入っていてね、お金も」
「あ……」姉は紙袋の中まで見なかったのか。
「失礼かと思ったけど、読んだ後に気づいたの。これで焼き肉でも食べなさいって。試験前だからお酒は飲ませないようにと書いてあったけど」
おかしいのと恥ずかしいのとで、つい電話口で吹き出してしまった。事情を大家さんに説明すると、またコロコロと笑ってますます姉が気に入ったというようなことをいった。あらためて伺うことを伝え、恐縮して電話を切った。
姉は中身を知らないままやってしまったのだから、まあ仕方がない。試験から戻ってきたら、残念だけど弥生さん本人からお詫びがあったことを伝えよう。それと手紙とお金のことは、世の中の息子代表として、名誉挽回のために母には黙っておこうと思う。
携帯電話をベッドに放り投げ、大きく伸びをする。窓からは昨日の雨が嘘のように強い光が差し込んでいる。
さて、と一息つくと、僕は布団を畳みに外へ出た。