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『ある。』二十一七月

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「あ、ねぇおばあちゃん。さっき行った美術館になってた元たまり場の写真に書いてた『ある。』ってどういう意味?」

おばあちゃんは、はて?と思い出すような仕草を少ししてから「あ、あれね」と、右の手を小さく上げた。小さな可愛い挙手だ。そしてその手を自分の胸にあてた。国歌斉唱の時みたいなポーズ。そのまま優しく目を閉じると、

「うん、ある」と吐く息と一緒に言った。

よくわからないまま眺めていると、なっちゃんもやってごらん、と言われたのでわたしも見たまま胸に手を当て「ある?」と聞いた。おばあちゃんは目を閉じたままゆっくり話し始めた。

「なっちゃん、真上じゃなくてね、顎をちょっと上げて少し上。ボールをポーンと放り投げた時の放物線のそのてっぺんあたりを見るのよ」

最初は何を言っているのかわからなかったが、放物線と聞いてピンと来た。さっきの空の写真に書かれた『放物線のてっぺん』の事だ。言われた通りに目線をそこへ送ってみた。手はまだ胸の上にある。すると突然、体中に不思議な感覚が走ったのがわかった。例えばそれを言葉にするなら「ある。」だった。

「なっちゃん、あるでしょう?これね、みんな持っている大事なものなの。目には見えなくても、会えなくても、不安でも怖くても、こうしてちゃんとここに感じられる事で強く生きていられたの」
おばあちゃんはゆっくり目を開けてこちらをまっすぐ見て、微笑んだ。少しだけ寂しそうな表情は若返る前のおばあちゃんにも思えた。

ある。確かに私にもある。でもそれが何かはわからない。50年前の人々はいつも未来を見つめて生きていた。明日に期待をしていた。あのたまり場にいた若者たちも見えない先を信じる力が消えないように戦っていたのかもしれない。明日を思うだけで未来になる。そう信じていたのかもしれない。

「ある。」を感じるだけでなぜか足の裏に地面がしっかりついている気になった。何かを観念した時のような柔らかい脱力だった。そう思うと同時に胸の中から言葉がボロッとこぼれ出た。

「おばあちゃん、わたし夢がない。やりたい事もわからないし、自分がどうしたいのかもわからない。だから、未来とか来ないかもしれない」

胸の中のもやもやが、どんどん膨らんでいくのがわかった。本当はこれがずっと怖かったのかもしれない。すると、シワシワの手がわたしの頭に伸びて来た。

「大丈夫。あるよ。探し物は、見晴らしのいい場所よりたくさん物で溢れている所で見つけるほうが難しいのよ。簡単な事ができてない訳じゃないの。だから大丈夫」

しわの手は、ゆっくり頭を往復する。

「知って、好きになって、感じて、閃きを爆発させるの。今できる全部の方法を使って、自分の閃きに自信を与えるのよ。今好きなものが無くてもいいの、なくてもあるから。見えないから不安になっちゃうけど、ある。のよ。」

おばあちゃんの魔法みたいな言葉と優しい声と手は、私の涙腺をやすやすと崩壊させた。

もしも、この「ある。」をおじいちゃんが考えて、あの写真の裏に書いて共有していたのだとしたら、今こそ呟きたい。#祖父天才過ぎカオス

止まらない涙はもうしょうがないと思う。

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