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『ある。』二十一七月

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「じゃ、次行ってみようー!」と、どこかで聞いた事のある声と仕草でまた1枚写真取り出し、サッカーのイエローカードみたいにそれを高々と掲げていた。やっぱりこの人は特殊な状態だ。そして、わたしの間やタイミングが採用される事は、無い。で、今度の写真は…

「学校?」

 
写真の裏面には「ある。」とだけ書かれていた。

***

その場所は、正確には学校ではなかった。二人が大学生の頃、おじいちゃんが入っていた写真同好会のたまり場で、当時の同級生宅の離れだという。さすがに、人の家までは…と思ったらなんと、今そこは小さな美術館になっていた。私とおばあちゃんは思わず低いジャンプを飛んで喜び、その場所に向かった。

ただし、タクシーを使って。

元同好会のたまり場はとても小さな、でも清楚な空間だった。この日はバラの絵をモチーフにした作品が展示されていて洋風の館内にとてもマッチしていた。二部屋繋がった展示室の奥に何かを見つけおばあちゃんはぎこちないペンギンのような早歩きをした。

小さなチェストの前で大きく息を吸い、目を潤ませるおばあちゃんを見て思い出した。今朝、初めて見たおじいちゃんとおばあちゃん二人写真。彼らが立っていたのが、ここだった。展示中の作品たちには見向きもせず誠に申し訳ないが今日は許して下さい。とおばあちゃんの代わりに謝っておいた。
ただ、どうしてこの建物の写真の言葉が「ある。」なのか。それだけはどうしてもわからなかった。

***

美術館を出るとさすがにおばあちゃんに疲れが見えた。そりゃそうだ、朝から若者よりテンションアゲだし、疲れない方がおかしい。どこか休める所か、近くに家の方まで行けるバス停がないかスマホで検索をする。と、左肩に白っぽい気配を感じた。ゆっくりと体を捻りながら確認すると、おばあちゃんが目玉をギラつかせてスマホをのぞき込んでいた。全然疲れてない。むしろ元気が戻っているようにも思えた。やっぱり呟こうか。「#祖母の体力マジカオス」そんなふざけた事を考えていると突然おばあちゃんのしわの指がわたしの携帯を指さした。

「ねぇ、そこ行きたい」

そこって…と、検索していた画面を見ると小さな雑貨屋さんの画像が出ている。

「ああ、これはこの近くのバス停を調べてて、で、調べたバス停の隣にあるらしい雑貨屋さんの写真。でも、バス停まで遠いから、駅まで戻ったほうが早いから」

「行きたい」
「うん、え?聞いてた?ほら見て。行かなくてもね、今はこうやって見れるの。ホームページって言うのがあってね、SNSって言うのもあって、情報は見れるの。だから行かなくても」

「うん、行きたい」

全然聞く耳を持たないので、お店のショップ説明を読む。

「ここはねスコップとかガーデニング、あ、庭の花壇とか、そういう雑貨とかを中心に扱ってるんだって。ね。今いらないでしょ?」

「そう…。わかった」

やっとわかってくれた。ホッと胸をなでおろしたのも束の間だった。

「じゃ、行こう!」

はぁ?思わず声が出る。「これで、ほら。ほら。今、全部見れたでしょう?」携帯を突き出して画像を高速でスライドして見せる。するとおばあちゃんは両手で顔を横にひっぱられたような平べったい笑顔を作って言った。

 
「だから。もっと見たくなったから」

 

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