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『ある。』二十一七月

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「19歳」
「若っ。ていうか同い年。ねぇ、この人に会いに行くの?今から?」
「そう」
「今日?」
「今日」
「え?会えるの?」

会いに行くの。と、ニヤリと微笑んだおばあちゃんがなぜだか可愛く見えたのはお母さんも同じだったのだろうか。

***

「じゃぁ夏、気を付けてね。おばあちゃん頼んだね。何かあったらメールして。お母さんこれからパートだから」

結局、私も行くことになった。秀志に会う旅。いささかの不安を抱えながら「わかった」と玄関で靴紐を結びながらお母さんに返事をした。結んだ靴紐を眺めながらふと、さっき見た写真を思いだす。写真の中のおじいちゃんは19歳、その隣に居たおばあちゃんは21歳、ちょうと今のおばあちゃんの心と同じ年だ。二人とも私が言うのも何だけど、若いのになんかオーラがあった。気がした。何かを見つめたような、動じない、強い意志を持ったような。どこかの山で見た滝の底の水の様な背中が引きあがるような透き通った目をしていた。ぼんやりと玄関に座りそんな思いにふけっていると、背後にけたたましい足音が聞こえた。

「おまたせっ」

足首で折り曲げるタイプのレースの靴下を履いてバージョンアップしたおばあちゃんが元気よく滑り込んできた。

「腰、大丈夫?」

「なによ、年寄り扱いしないでよね」2つしか変わらないのよ。本気でそんな風に思っている言い方であった。

少しだけ心配そうに見送るお母さんを背中に感じながら、とっても奇抜な白髪の老人とのお出かけが始まった。向かう町はここから電車でたった3駅の下町だ。

***

目的の街の駅は予想外に大きかった。近場とはいえ、いつもは使わない路線で通り過ぎていたのでこんなに開けていたとは知らなかった。おばあちゃんは肩から下げたポーチのひもを両手で握り何度かつま先立ちをしながらあからさまにキョロキョロしていた。

「トイレとか連れて行かなくて大丈夫かな…」すっかり気分は介護士で、目視で確認できるコンビニを数えていたら突然、目の前にズイっと何かがフェイドインしてきた。思わずのけぞり避けたが、よく見るとおばあちゃんが白黒写真を1枚、警察手帳を見せる刑事みたいにこちらにかざしていた。

「ここに行きたい」

写真には小さな観覧車が写っていた。

***

今もある駅前デパートの屋上広場にそれはあった。おばあちゃんは「うわぁ~」と、ちょっと大げさでベタな仕草を取りながらあちこちを見渡している。

私は近くにあった丸いテーブルセットに座って、おばあちゃんから預かった観覧車の白黒写真と今の風景を比べながら見た。「へー。結構同じ」50年近く前の写真は意外にも今と大差なく感じた。

何気なく、携帯で50年前のこのあたりの風景を検索していたら、「ねぇ、それ何してるの?」とさっきまで向こうを見回していたおばあちゃんが戻ってきて聞いた。おばあちゃんは携帯を知らない。正確には、今のおばあちゃんか。「あぁ、これは知りたい事とか見たい写真とか一瞬で見つけられて、あと電話もできるしメールもできる、あ、メールって手紙。文字が送れるの、写真と一緒にとか。ほら」と言ってインスタの画面を見せたが、おばあちゃんは目を細めて見ながら「へーーー、すごいねーー」と棒読みの返事をした。たぶん全然わかってないと思う。

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