と私が言うと、なんとも言えず重苦しい空気が流れた。
そうだ。
いつからか、「今」の話をすると、暗くなるのが当たり前になっていた。そんな状態だから当然、「未来」なんて考えたくもないから話しもしない。
それが当たり前になっていた。
「でもさ……」
じいっとグラスを見つめる那須さんは、長い沈黙の後にこう言った。
「頑張ってたら、良い事あるんじゃない?」
なんだそれ。たっぷり間空けてそれか。そんな言葉、なんの価値もないよ。頑張ってもダメだからこうなってるんじゃん。メンバーだって勝手にどんどん辞めちゃうし。頑張れば良い事あるなんて、人はいつか死ぬ、と同じくらい意味ない言葉だよ。
「どんな仕事でもそうだよ。一生懸命頑張ってたら誰かが見てくれるんだよ。だから腐らないで……」
「無責任な事言わないでもらえます?」
思わず私がそうつぶやいた瞬間、空気が凍った。
「私たちアイドルなんです。普通の仕事と一緒にされても困るんで」
「確かにそうだ。ごめんね」
と謝ってくれた那須さんは、どこにでもいる酔っ払いに見えるけど、まだまだ素面だし優しい大人だった。私はなんだか自分がすごくみじめに思えてきた。
「すいません、私たちもう行きます」
とサキは私を立たせて店を後にした。
「サキ、ごめん」
すっかり暗くなった飲み屋街を、駅へと向かって歩く。
「なんで私に謝るの?」
とサキは少し苛立ちながら言った。
「いや、なんか……」
気まずい沈黙に酔っ払いの笑い声がかぶさる。足取りはどんどん重くなる。
「ねえ、イズミ」
「なに?」
「じゃんけんしない?」
サキが前を向いたまま言った。
「なんのじゃんけん?」
「勝った方が……辞めても良い」
「……は?」
サキは閉店したスナックを見つめながら、話を続けた。
「ほら、イズミ気遣うタイプだし、五人なら一人辞めてもあれだけど、さすがに二人だと……」
「サキ、あんたやめたいの?」
「イズミはどうなの?」
サキが私の方に振り向いて目が合った。気まずい沈黙が私たちを包みこむ。
「あ、いたいた!」
振り返ると、那須さんが私たちの方に走ってきていた。
「あれ、どうしたんですか?」
「忘れ物」
と那須さんは紙袋を差し出した。