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『最後の二人』坂下泰義

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「屋上って寂しいよね」
「え?」
 デパート屋上の柵にもたれながら空を見上げるサキ。八月の空にどしんと重量感のある入道雲が見える。
「空に近づくほど、空が遠くなるでしょ。だから寂しいんだよ」
 サキは時々、詩人になる。いつもは軽く聞き流すのだけれど、今日はなんだか心に響く。センチメンタルになるのも仕方がない状況なのだ。
 私とサキは、五人組アイドルグループ『のっぺらぼっちゃん』として三年前にデビューした。その後、「学業に専念したい」と一人抜け、「自分と向き合いたい」ともう一人抜け、「やりたい事を見つけた」と先月もう一人抜け、ついに私とサキの二人組になってしまった。
 メンバーの減少に比例するように、ファンの数も減る。今日のデパート屋上での営業ライブは、並べられた椅子が可哀そうなほど、お客さんが少なかった。
「イズミ、ちょっと飲んでかない?」
アイドルが仕事帰りにお酒を飲んでいいのだろうか。
 だけど私たち、もう二十一歳だし、マネージャーも現場に来ないし、明日の予定も無いし、何も問題ないか……まあ、本当は問題だらけなんだけど。
「あの煙出てるとこ、行きたくない?」
 サキの指さす先、駅前の飲み屋街にモクモクと煙を上げているお店が見える。大きな赤提灯がぶら下がった焼鳥屋だ。ちょうどお客さんが二人出てきて、三人入ったところだ。人気店なんだろうか。
サキは心に詩人を飼っているし、見た目や服装も女子っぽいのに、ホタルイカの沖漬けが好きだったり、食の好みはおじさんみたいだ。
 私は逆で、サバサバして男らしいと言われるけれど、本当は原宿に初上陸した新感覚スイーツを並んでも食べたいタイプだ。
「イズミ、ああいうとこ苦手だよね」
「まあ、得意じゃないけど」
「あー、でも焼鳥食べたい」
 モクモクと上がる煙を見下ろす。
 煙はいつも見上げるものなのに、見下ろすなんて不思議な感じがする。
 舞い上がった煙は空にたどり着けず、あっさりと空気に溶け込んでいく。
 空にはさっきと同じ形の入道雲。
 消えていく煙と動かない雲に挟まれて宙ぶらりんな私たち。
「……行こうか」
 屋上遊園地ではしゃぐ子どもたちの声を背中に感じながら、私たちは駅前へと向かった。

 駅前の飲み屋街は、まだ明るいのにお酒を楽しむ人でいっぱいだった。おじさんだけでなく、若い女の子たちも意外と多い。

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