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『最後の二人』坂下泰義

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「この渋い感じがたまんないな」
 とサキは居酒屋の看板を見ながら言う。
「あ、ここだ」
 さっき屋上で見ていた店の前に着いた。赤提灯がぶら下がり紺色の暖簾がかかっている。
店の中は見えないけれど、入口横の窓から忙しそうに串を焼く店員さんの姿が見える。なんだか私たち二人では入りづらい。
「……リーダー、頼むよ」
 と、サキはこんな時だけ私をリーダー扱いする。
「リーダー命令、サキが先に入って」
「理不尽だ」
 などとやり取りしていると、
「いらっしゃい。二名さん、空いてるよ」
 店員さんが焼鳥に塩をふりながら声をかけてくれた。入ってみると、店の中は意外と広くてお客さんでぎっしりだ。カウンター奥の席に並んで座る。
「サキはどうする? 生で良い?」
「うん。あ、厚揚げあるじゃん」
 などと、およそアイドルとはかけ離れたやりとりを交わす私たちの足元には、衣装を入れたカバンが置かれている。さっきまで屋上で風に揺られていたスカートは、今は煙の充満した焼鳥屋の足元でぐったり。
「おつかれー」
 という女子特有の高い声で乾杯しても、なんだか気持ちは弾まない。
「……ノゾミちゃんから連絡来た?」
 とサキが辞めたメンバーの名前を口にした。ノゾミちゃんは、学業に専念したい、と一番最初に辞めた子だ。歌もダンスもメンバーの中で一番才能があったから、事務所のがっかり感はすごかった。
「来た来た。なんか留学するんでしょ?」
「そうそう。前から頭良かったけどすごいよねえ。しかもちゃんと連絡くれるっていう……」
 ノゾミちゃんは、自分が一番最初に脱退した事を、申し訳なく思っているらしく、ちょこちょこ連絡をくれたり、たまにライブを観に来てくれる。だけどその度にメンバーやファンが減っていっているわけで、こちらとしてはなんだか申し訳ない気持ちすら抱いている。
「私たちもう二十一だもんなあ」
「そうだよねえ……」
「お待たせ。ひな、かわ、せせりね」
 気まずい間を救ってくれるように串焼が届く。無言で鳥皮を噛む。美味しいのにちゃんと味わえない。なかなか飲み込めない。
「……イズミ」

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