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『雨の種を鳴らして』もりまりこ

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 外は雨が降って来たんだと気づく。店内にいる従業員にそっとわかる暗号みたいな曲が<雨に歌えば>だった。現場に戻ったらまずアパートの紙袋の表側にビニールをセッティングすることを始めなければいけない。単品買いの人が多いサラダショップではそんなに重宝されることはなかった。
 でもまれにグラタンを買い占めてゆくようなおばさんがいたり、ほかの買い物の品を入れたいからと、そのビニール袋入りの紙袋をちょうだいっていうお客さまもいるから、ちゃんと用意しておかなければいけなかった。
 こういうことはまだまだ年季の浅いわたしやバイトの山根君の仕事だ。
 今年はなぜか5月のほうが雨が多くて、はやめに梅雨がきているような気配だった。
 隣のキムチ専門店の<清彩館>の売り子さんたちは、本場の韓国生まれの人達だった。お客さんが途絶えた時、あめふってきましゅたねとかわいいニュアンスでおにぎり屋さんの<米蔵>のお兄さんたちに話しかける。彼女たちの言葉が音楽のように響いてくるせいか彼らは嬉しそうだ。ほんとだね。かさ、かさ持ってきた? って横から話に加わって来た<米蔵>のチーフの志田さんが傘をパッと開くジェスチャーをしながら、向かい同士で会話している。彼女達
はその姿が一生懸命すぎて滑稽だったのか、チマチョゴリの光沢のある胸元をゆらしながら、口元に手をやってふたりして顔をみあわせて笑っていた。
 志田さんと目が合う。会釈をしたら、ブースから出てきてしおちゃん元気? 元気そうでよかったって声を掛けにきてくれた。志田さんの元気は、どんな人にも影響力があって、ほんとうにすごいなって思う。おかげさまでって答える時、ほんとうに元気の妙薬を嗅いだような気持ちになる。そんな天性の明るさが時折、羨ましい。
 雨が降るとなぜか<ベジルド>では<まるごとポテト>に人気が集まった。
 どちらかというとサラダよりも揚げ物全般が売れてゆく。その心理はわたしにはわからないけれど。
カウンターのオブジェは硝子の細長い瓶の中にドライハーブが重なっていて、その間にパンプキンシードが山吹色に彩色されたものがところどころに入っている。
 そのハーブのオブジェを見るたびに、<グリーン・サム>で起きた少しだけふしぎな出来事を思い出す。

 透があっちに行ってしまうなんて考えたこともなかったあの日。夕刻のシフトを終えると最上階へと昇っていった。
 着くと、テラコッタのカバーを百合子さんの指示どおりに移動させている透の中腰の姿が見えた。
 あら、来たのしおちゃんって笑顔で百合子さんが迎えてくれた。おまちかねよ、透ちゃん。
 百合子さんはわたしに席をすすめながら、「透ちゃんつかっちゃった」って笑う。
「テラコッタのカバーってすごく重いでしょ、素焼きだからね。だからちょっと動かしてもらってたの。バイトの遠藤君いなかったからすごく助かっちゃった」
 ねぇって百合子さんは透に視線をあわせる。透もうれしくてしかたなさそうに「いつでもいうてください」って答えていた。
 しおちゃん、さっき透ちゃんにもらっちゃったのよこれって、百合子さんは茶色い筒のようなものを見せてくれた。
「なんやと思う?」
 トートバッグを椅子の上に置くと百合子さんから渡された筒を手に取ってみた。振ると音がした。中になにかが詰まっているような感じだった。その音のひとつひとつは、ちいさなものたちがひしめき合いながら、ゆすったせいで音の欠片をこぼしている。わたしが答えを探す間もなく、待てない透はレインスティックっていうねんって正解をもらした。

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