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『雨の種を鳴らして』もりまりこ

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 観葉植物をなぜか好きだった透。いつだったか大振りの葉が印象的なモンステラっていう名前のそれを抱えて、百合子さんの店から自分の部屋まで持って帰ったこともあった。あと、恐竜みたいな名前のフィロデンドロンだとか。
 赤紫のおおきな葉がだらりと揺れていて、自信ありげな風情をしている植物だった。

 マンションに戻ってベランダの窓を開けると、ライティングビューローの前に置いてあるアジアンタムの葉が揺れた。いままで、無口で過ごしていた時間をいっせいに解き放つみたいに葉っぱの群れがとたんに饒舌になる感じがする。
 ただ風に揺れているだけなのに。
 ちいさなベランダに出て、向かいの高速を走るテールランプを眺めていた。
 尾のような光の川がどこかに、にじみながら流れてゆく。
 カーステレオからの曲が、ふいに過ぎ去っていくのと同時に部屋に戻った。
 グレーの冷蔵庫とバスの座席みたいな黄色い二人掛けのソファの間に小さなコーヒーテーブルが置いてある。そこには2枚の写真。
 1枚はわたしを育ててくれていた、大好きだった祖父母たち。
 いつだったか何回目かの法事が終わった後、祖父はわたしの頭をくしゃくしゃになるぐらい撫でてくれた。少しかさついた指がわたしの髪の毛を撫でてゆくときなんだかわからない熱い線状のものが、うなじを通って背骨を通過して尾骨で止まったような感覚に陥った。すこし泣きそうな気分に似ていた。
 透がこの部屋に遊びに来た時、彼らの写真を見ながらやさしそうであったかそうやなって言ってくれた。
 そこにある写真なのに、あんまり遠い目をして透が眺めているから不安になった。それをみて凪のようにわたしは黙り込んでいた。
「どしたん? しおり」
 しなないでね、わたしよりさきに。
 声にしなかったけどそんな思いでいっぱいだった。
 しなないでよ。ぜったいわたしよりさきに。
 その言葉をわたしはいつまでも抱えたまま、透の横顔を見ていた。
 今日、百合子さんが言ってくれた言葉を思い出しながら祖父母の隣を見る。撮るなよって顔したちょっと不機嫌そうな透の写真。
 透の為に泣いてないよ。一生泣かないよ。そう独り言ちた。
 背景には<グリーン・サム>の看板がうっすらと遠くに写っていた。

 朝礼がやっと終わった。<天神屋デパート>の店長は柔和な笑みが崩れない人だった。
「心はたとえ鬼のようになっている時でも、いつもほほえみを!。それはやがてあなたがたの財産になるときが来るのです」
 このフレーズが来ると、朝礼挨拶のシメだった。デパ地下の同僚達は視線を合わせてあいまいに微笑みながら、みんなが持ち場に散ってゆく。

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