足でこいで進めるものらしく、一生懸命にこぎながら、運転手さんみたいに駅の名前を呼びながら私に手を振った。
隣に歩いてきた主婦が、かわいいお子さんですねぇ、と言って過ぎて行った。私の子じゃ、と言いかけて、こういう人生もあったはずなんだよなぁと思う。誰かと普通に恋愛をして子供を生んでいたら、零美くらいの子がいてもおかしくないのだ。彼のことは好きだ。いろんな仕事の話もできる。歳が離れていても幸せだし、彼もきっとそう思ってくれているとは思う。でも歳はとる。このまま、かわいいお子さん、のないまま私は歳を取るのだろうか。
あれ、と思ったときにはすっと涙が流れていた。
零美はまだこいでいるから電車の最後の場所で待っていてあげようと思い、電車が止まりそうな場所近くのイスに腰掛けた。零美は私に手を振りながらがんばってこいでいる。
そばのテーブルには、老夫婦と小さな男の子が座っている。男の子はしきりに、おなかすいたとかまだ帰らないとかあれに乗りたいとか言い続けていて、おばあさんとおじいさんは、そうかそうかでもねぇ、とゆっくり諭すように話している。結 局、最後にキャラクターの乗り物に乗って帰りましょうというやりとりになって、男の子は200円をもらって走り出した。おじいさんとおばあさんは、あらあらと言いながら目を合わせて、ほほえみ合っていた。
私が子供の時も、こんな風景があった気がする。友達、家族、恋人、子供の自分、大人の自分、ぜんぶ繋がって今になってるんだ、と思う。零美のこいだ電車が止まり、中から零美がおわったぁーと言って歩いてきた。
「あれ行く、えいみちゃんも」
零美は観覧車を指して私を見上げた。
「いいね、私も乗れるのかな」
「乗れるよー、前ね、ママと乗ったもん。お友達とも乗ったことあるよ。あ、えみちゃんもお友達いる?」
「お友達? いるよ」
お友達いる? というのに、いないわけないじゃん、と笑いかけたけれど、大人になってからの友達は零美の言う友達とは違うかもしれない。仕事から離れたり、もし結婚したり、もし出産したり、もし引っ越しをしても、私たちは友達だろうか、と理香たちを思い出す。
「そっかそっか、じゃあ今日は私と乗ってみよう」
零美に手をぐっとひかれながら観覧車に向かうと、紫、青、ピンク、赤、黄色、と原色とパステルカラーの中間のような絶妙な色合いの観覧車がゆっくりまわっていた。
零美は、ピンクがいいの、とピンクのゴンドラが来るのを待って、私を引っ張って中に入った。ペットボトルの中に入ったみたいに、丸いコンパクトなゴンドラで、とてもかわいらい。
わー、と2人で喜んでいるうちにてっぺんに着き、零美は、うちのマンションはあれかな、あっちかな、と言うので、私もあれじゃない? あ、あそこは商店街だね、と言った。線路もまっすぐ見えるねすごいねー、と零美とはしゃいだ。
ゴンドラを降りると、零美は、さっき男の子が乗りに行ったキャラクターの乗り物に乗りたいと言うので、200円を預けて、私はコーヒーを買ってイスに座った。