ねぇねぇねぇねぇー、と私たちの会話に入りたがってどんどん声が大きくなる零美に、東急連れてってくれるって、と英美が言うと、ほんと! とまたソファからジャンプした。
「ほんとだよー、ビデオ見終わったら行こっか」
「ビデオじゃないよーでぃーぶいでぃーだよー。もう見た!もう行く!かまたえん!」
「へぇかまたえんって言うんだ」
「そうだよー、えみちゃん知らないのー? だめだね」
だめなの? と言うと、零美にもだめだって言われてかわいそうにーと英美が笑った。ごはん作って待ってるから、という英美の顔を見て、あ、ごはん作って待ってくれる人が家にいるって安心するかもと思った。
零美はさっさと自分の部屋からパーカーを持ってきてはおって、私の前に立った。大人なのに準備が遅い、なんて言うので、めくれている零美のパーカーのフードを直してあげた。小さいパーカーってこんなにかわいいんだ、と思わず見つめてしまった。
駅に向かいながら、かまたまえんってとしまえんに似てるねと言ったら、零美がそれってなにー? と聞くので、夏はプールがあってね、乗り物が大きいのがあってね、と話すと、れみはまだかまたえんでいーの、と言って、繋いだ手をブンブンと振った。家で見たときよりもずっと子供に見える。楽しいと思えるところに行くというだけで幼稚園生くらいの気分になるのかもしれない。
「ねぇ、れみー、たまにママたちと行くの? かまたえん」
駅が見えてきて指をさしながら言うと、うーん、と口に手をあてて首をかしげて少し考えている。
「んー、あのね、れみは行きたいんだけど、あんまり言うとパパとママ忙しくて困っちゃうからあまり言わないの」
英美の前では、わたし、と言っていたのに私の前だとれみは、となるのは何か彼女なりに意味があるのかなと思いながら、そっかーえらいねーと返した。
話をしながら東急に入り、屋上を目指した。エレベータの中で零美は、あがってくあがってくぅーと鼻歌混じりだ。
屋上に出ると、想像以上に大人びた空間になっていた。屋上だから空が広がって見えて気持ちいいのはすぐに気づいたけれど、よく見ると、グリーンが多く、イメージしていたような屋上のちゃっちいダサい感じがなかった。古い錆びた乗り物とか、スーパーで買ったもののゴミとか、そういったものが無く、むしろおしゃれなテーブルとイスが置いてあったり、ちょっとしたステージがあったり、カフェスペースがあったり、イベントや夜には大人が楽しめそうな空間になっている。
「すごい、いいところだね」
私がふと呟くと、そうだよー知らなかったの、だめねぇ、と英美の口調で言われるものだから思わず笑ってしまう。
「さいしょは電車に乗るのー」
手を話して駆けていく零美の姿が、昔どこかで見た誰かの後ろ姿にだぶって見えて、あぁ私にもこういう時があったんだと唐突に思った。電車は辛いものでもイヤなものでもなくて、どこかへ乗せていってくれるわくわくしたものだった。
零美はあたりまえのように、300円、と言って手を出し、私は、あ、そっか、と慌てて100円玉を3枚渡した。そこで見ててね、ぜったいちゃんと見ててね、と子供らしいことを言って、電車に乗り込んだ。