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『街を見下ろす屋上で』柿沼雅美

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「ママはねーじゃあこっちのチョコかな」
 英美の口調とトーンもまた、零美に似ていた。
「私はこれかな」
 誰にも聞かれないまま余ったモンブランを取った。普段だったら絶対選ばないなぁと思う。
「相変わらずみたいだけど、英里大丈夫なの?」
 なにが、という顔をしてマロンクリームを舐め、英美を見る。
「フリーランスの仕事って退職金もないし保険とかもちゃんとしてないみたいだし、出版業界不況なんでしょ? あんたみたいなイラストレーターがちゃんと食べれてると思えないし」
「あー、うん、まぁ」
 そう答えながら、たまにわけの分からないほんとかウソかも分からないネット記事を書いて小銭を稼いでいたりする、なんて言えない。
「それにほら、女の子だからって言ってお母さんたちも甘く見てきたけど、さすがに30半ば過ぎてそれじゃあ心配してるのよ」
「うん、わかってるけど」
「お父さんなんてこの間零美に会いに来たって言いながらあんたの話ばっかりしてたわよ。だれだれさんの息子さんがまだ未婚だからなんとかとか」
「えぇーそれはやめてほしい」
「そうだろうけど、もうそういうふうに言われる段階に来てるってこと。付き合ってる人いるならちゃんと言ったほうがいいかもしれないわよ、いないの?」
「い、いるけど」
「いるの!? なんだぁじゃあ早く結婚しちゃいなさいよ」
 SNSを見られていたら男の影があるのは気づきそうだから、英美たちはそういうものとは繋がりがないんだ、とふと思う。
「そんな簡単にはいかないでしょう」
「そんなことないわよ。いっつも言ってるでしょ、タイミングだって」
「そんなこと言ったって」
 まさか12歳年下の男の子と付き合っててとても結婚なんて言い出せない、なんて口が裂けても言えなかった。
「もうどのくらい付き合ってるの? 最近?」
「さ、3年くらい」
「え! もう早くいいなさいよ」
 3年前は彼は大学を卒業したばかりで、だなんて口が裂けても言えない。
「まぁまぁもういいから私のことは」
 私が言うと、ねーねー、と零美が言い出し、イチゴを唇ではさんでおもしろい顔をした。私が笑うと、嬉しそうにイチゴをスポッと口に吸い込んだ。

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