玄関を開けた英美はグレーのスウェットの上下を着て、ひさしぶりじゃなぁーい、と私を見た。
「相変わらずカジュアルな格好してるね」
「そういうお姉ちゃんもスウェットじゃん、スウェット嫌いじゃなかったっけ?」
「嫌いじゃないわよー。だって部屋にいるんだもん、普通でしょ。英里は外から来たのにジャージみたいな格好してって言ったの」
「よく見てよく見て、足首のところキュッてしてるでしょ? Tシャツだってメーカーロゴがまた流行ってるの」
「いっつも流行ばっかり気にして。まぁ昔からそういうところに敏感で学生の頃はバッグ借りたりで助かったけどね〜」
ふふっ、と何か思い出したように笑って、一緒にリビングに入る。
「あっ! えりちゃん来たの!? ひさしぶり〜」
英美とまったく同じ口調で、子供も零美がしゃべるのでびっくりした。
「れみちゃん、ひさしぶりだねぇ、おじゃましまーす。すっごい大きくなったね」
「もう1年生だもん!」
そう言ってソファからジャンプするように降りて、私の手に提げたケーキの袋をパッと見た。
「あ、これ、ケーキ買ってきたよ」
分かってた、と言わんばかりに、うんうん、と言って私の手からケーキの袋を取ってテーブルに置いた。ガサガサと中から箱を取り出し、テープを爪でひっかいて一刻も早く開けようとする。
「ほら!れみ、おばさんにありがとう言ってからでしょ」
英美はそう言って、零美の手を抑える。
「んんんー、おばちゃんありがと」
さっきはえりちゃんと言っていたのに、言われた通りにおばさんと言うなんてこれはこれで素直に育ってる、と思う。
「お姉ちゃん、おばさんってのやめない? さっきれみはえりちゃんって言ってくれてたのにー」
「そんな細かいことなによー。いいじゃない、叔母さんなんだから」
「そうだけど、ババァのほうのおばさんかと思っちゃうんだもん」
私が言うと、零美が、え、ババァ? と言って私を見た。
「おい」
私が思わず突っ込むと英美が笑い、それが嬉しいのか零美は、おかしそうに、ババァ? ねぇババァーア? と連呼する。
「ほらーお姉ちゃんこうなるー」
私が言うと、ごめんごめんと言いながら、零美の手を抑えて、お皿とフォーク持って来て、と小声で言った。
テーブルの向かいに英美と零美が座り、英美の正面に座る。何かのブログで見たような微笑み合う親と娘の姿に一瞬目がくらむ。なんでか分からないけれど、幸せそうなものを見ると、何か見ちゃいけないようなものを見た気分になって、自分には体験できないそれにどこかに欠陥がないかを探してしまいそうになる。
「わたしはねー、これー。ママどれー? いちごー?」
零美の仕草を見ると、成人したら率先してお酒を注いで回ったりサラダを取り分けるような女の子になるんじゃないかと思う。