「叔母さんのお陰で、かなり自己愛が持てるようになりましたよ。自己中になっていないか、時々悩むくらいにね」
「お、良いね!」
ちょっと皮肉も入っていたのだが、叔母にはそんなもの通用しなかった。
「ふぅ、ま、良いか。だって、自分が何をしたいのか、言いたいのか、分からなかったあの頃より今の方が断然好きだもん」
「ウンウン」
私の言葉に、わざとらしいくらいに大きく頷き返す。
「でもさ、それでも名古屋に戻るんだよね。・・・・・・あの場所に戻って彼らと過ごすうちに、もし、万が一、自分を押し殺しそうになったら、我慢せずにすぐに連絡してね」
歯を見せ、大きく笑う。しかし、その瞳は、確実に潤んでいた。
(最後まで涙は見せない気だな。叔母さんらしい)
「うん」
叔母は、暫く空を見上げ、黙っていたが、何度か深呼吸した後、やっと口を開く。
「言わないでおこうか悩んだんだけどさ。でもさ、ごめん、やっぱり我慢出来なくて」
「我慢は叔母さんらしくないよ、言ってよ」
それでも、やはり腕を組みながら考え込んでいた。
「何そのウジウジ感。どうしちゃったの」
「うーん、そうね、私らしくないね。では正直な意見。都合が良いな、と私は思っちゃったの、あの二人のこと。高校まで放ったらかしにしていたのに、自分達が店を開いたから、香澄ちゃんに戻って来て手伝えって。なんか、ね。いや、香澄ちゃんが決めた事だから、私がとやかく言うのは間違っているけどさ」
竹を割ったような人が、こんな最後の最後に引き留める様な台詞、本当に珍しい。だが、そこまで葛藤するほど、私の事を真剣に考えてくれているのだ。
(ほんと、私の事となると。叔母さんは)
嬉しさで口元が緩んでしまうのを必死で堪える。
「うん、私なりに悩んで決めた事だから。一度、壊れてしまった関係だけど、今の私が彼らと過ごしたらどうなるか、もう一度親子としての関係を築けるチャンスかなって思ったの。あの頃の私は、まだ小さかったし、何かを自分から起こすなんて出来なかった。意見すら言えなかったから。でも、私はここに来て、叔母さんと過ごして随分変わった。今なら、お母さんとお父さんに、色んなことが話せると思うし、二人の言葉をただ聞くだけじゃなくて、どうしてそういう意見になったのかな、とか考える事も出来るから、きっと」
「香澄ちゃん、ほんと、変わったよね。あんなに大人しかった子が。そうよね、今の香澄ちゃんはあの頃と全然違うもんね。なにせ、高校じゃ、みんなに姐さんって呼ばれていたくらいだし」
「やめてよ、それ!」
もう、と怒った顔を向けようと思った途端、急に叔母が両手で抱きしめてきた。
「何かあったら、すぐ電話してね。飛んでいくから」