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『mémoires』川瀬七貴

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 私の独り言に、叔母が優しく微笑む。
「今日は風が強いから。東京の空も、名古屋も同じ、おんなじ空だよ。大丈夫、香澄ちゃんもすぐにこの街に慣れるって」
 ごく自然に、本当に普通で当たり前の事の様に、スッと叔母が手を伸ばす。
「え・・・」
 大人が手を伸ばしてくれたのは、幼稚園の時に先生にそうして貰ったのが最後だったと思う。甘えて良いのか分からず戸惑う私に、叔母は更に笑ってみせる。
「さ、手を繋いで帰ろう。ようこそ、蒲田へ」
 私は大きく頷くと、両手でしっかりと彼女の手を握り締めた。

 

 

 「懐かしいね」
 相変わらず、空は青くて、雲の流れは速かった。ただ、たまたま今日もそういう天気だったというだけの事なのだが。それでも、今日も観覧車は青空を旋回し、トランポリンで跳ねる子供達があげるはしゃぎ声は、私の心に懐古的な平穏をもたらしてくれた。ずっと私と一緒に居てくれた、私を見捨てないで居てくれた、不変的な景色。
「あはは、しょっちゅう来るじゃん。てかさ、昨日も香澄ちゃんと来たわよね。なのに、何でだろう。ここの屋上は懐かしいって、いつも感じてしまうのは」
「うん」
 ここは、初めて来たあの時と変わらない。ただ、私は大きく変わっていた。そもそも、見上げていた筈の叔母の顔が、今では少し見下ろした位置にある。
「また帰ってくるから」
 言いながら、着ている制服をそっと撫でる。三年間、ダサいダサいと愚痴を言いながら着続けた高校の制服が何だか少し愛おしい。もう、これを着ることは二度と無いのだ。
「名古屋ってさ、みんな味噌ばっかり食べているんだよね。香澄ちゃんが味噌星人になっちゃうよ」
「何それ」
 プッと吹き出し、二人で顔を見合わせる。
「味噌星人って。我ながらダサいネーミングつけたな、おい」
「名古屋に謝ってよ、叔母さん。一応、私の地元なんだから」
 そして、お互い大口を開けて笑い声を上げる。小さな子供連れのお母さんが、私達に怪訝そうな視線を投げてきた。
「もう、絶対私達変人だと思われているよ!」
「良いじゃん、変で結構。むしろ、そこ、誇りに思っていますから」
 笑い過ぎて斜めにずれた丸眼鏡を直しながら、叔母は得意満面に言う。
「誇りなんだ!気づいていたけど」
「おお、バレていたか」
「いやいや、寧ろ、初めてあった日から、分かっていましたよ」
「さっすが!香澄ちゃん!!でもさー、自分を誇りに思うって凄く大切な事なんだから。自分ファースト、ね。そうそう、香澄ちゃんは、ついつい自分を後回しにしがちだから。そこ、気を付けてね」

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