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『mémoires』川瀬七貴

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 幼い私は、初めて訪れた叔母の家で、一人立ち尽くしていた。小さな胸の中を突き破ろうと膨れ上がる絶望感に、襲われ続けながら。
(お母さんは私をすてたんだ。私はもういらない子なんだ)
 脳内で、ただこの言葉だけが延々とリフレインされていた。

 

 母が私の父と離婚したのは、7歳の時だった。その後、一年足らずで次の父親が来た。新しい『お父さん』という人は、私の内向的な性格を酷く嫌っており、当たりは本当の父親よりも酷かった 。よって、その二年後、弟が産まれた事により、私を追い出すとても良い口実が出来たのだ。
「赤ちゃんのお世話は大変なんだよ、分かるだろ?」
 彼が、初めて私に笑顔を向けた。余程嬉しかったのだろう。必死に母へ救いを求めたが、私の存在などすっかり忘れてしまったのか。吐き気がする程の慈愛に満ちた眼差しを、弟だけに向け
「その子の事は、あなたに任せるわ」
 と言い放ってきた。私の話をしているのにも関わらず、こちらに一度も視線をくれる事は無かった。その瞬間、たった10歳にして、私はこの世の全てが理解出来た様に思えた。この世界には、要る人間と要らない人間がいる。そして、私は後者だと。

 春休みに入るとすぐに、お父さんの妹、つまり全く血の繋がっていない叔母が住む蒲田へと、現在の住まいである名古屋から強制的に送られていた。彼の古いセダン車は、タバコと、食べ物が腐敗した臭いと、人間の臭いがぐちゃぐちゃに混ざっていて、酷く息苦しかったのをよく憶えている。
(ここから出たい。でも、ここを出たって・・・どこに行っても・・・)
 あの頃の私にはどうする事も出来なかった。ただただ、もう世界のどこにも自分の居場所は無いのだと、後部座席で蹲って泣いていた。

 

 「ごめん、ごめん、お待たせー、ちょっと片付けをしててさ」
 バタバタとスリッパから大きな音を鳴らし、玄関の正面にある廊下走ってくる女性。襟がヨレたTシャツに、くしゃくしゃのハーフパンツ、髪は適当に一つに纏めてあり、大きな丸眼鏡を掛けていた。
「お世話になります」
 腫れた目をした私は、それを相手に見られない様に、出来るだけ深々と頭を下げた。
「香澄ちゃん、よく来てくれたね、ありがとう!いやぁ、久しぶりだねー!兄貴の結婚式以来だから・・・あれ?香澄ちゃん今いくつだっけ?!」
 信じられないくらい明るい声に、一瞬驚き顔を上げてしまう。そこには、太陽みたいにキラキラと眩しくて、思わず目を瞑ってしまいそうな叔母の笑顔があった。
「あ・・・・・・じゅ、10歳です」

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