今でも叔母の例え話は疑問が多く残るが、小学生の私の頭では、外国語で書かれたニッチな分野の専門書を開いたくらいの混乱が生じていた。ぽかんと口を開け、マジマジと叔母を見つめていると、彼女は瞳を輝かせ、何故か誇らし気だった。
「大丈夫、そういう反応には慣れているから。私、変わっているでしょ」
「ね、ね、まだ食べられる?」
ホットケーキとソーセージを3本もあっという間に平らげ、叔母は珈琲を啜りながら笑う。
(よく笑う人だな)
「ここさ、パフェがむちゃくちゃ美味しくてさ、香澄ちゃんにも食べて貰いたいんだよ」
反射的に私が頷くと、機嫌良さそうに彼女も大きく頷き、後ろを向く。
「すいませーん、ストロベリークープ2つくださーい」
程なくして、私の前に出されたのは、大きなグラスから溢れそうな程、真っ赤なイチゴとふわふわのクリーム、それからカスタードとアイスがたっぷり詰まったパフェだった。
「ここのカスタードがさぁ、めちゃくちゃ美味しいのよ」
大きな口を開け、スプーン一杯にすくったパフェを頬張り、はぁと至福のため息を吐く。私は、その光景をただ傍観していた。
「ん?どうしたの?香澄ちゃんも食べなよ。溶けちゃうよ」
「・・・私、パフェ、食べるの、初めて」
「あ、ごめん。甘いもの嫌いだったか!」
フルフルと首を横に振る私に、叔母は不思議そうな顔をつくる。
「・・・こういうお店に連れてきて貰った事、初めてだから」
何とも表情がくるくると目紛しく変わる人だ。先ほどまでの笑顔は何処へやら。みるみるうちに、顔を赤く染め、目は釣り上がっていく。
「はぁぁ?!」
あまりの大きな声に、他のお客さん達の視線がこちらに一気に集まってしまった。
「どうなっているのよ、あの家は!あいつらイイもの食ったって、しょっちゅうSNSにアップしていたぞ!香澄ちゃんも一緒じゃなかったのか!!帰ったら、ソッコー電話してやる!」
周囲の目など気にする様子もなく、叔母は顔をくしゃくしゃにしながら憤慨する。しかし、その姿に、何故か恥ずかしいとか、嫌な感じは湧き上がってこなかった。寧ろ、私には無いもの持つ、憧れの人へ抱く感情に近いものが生まれつつあった。
(もし、私もこんな風に笑ったり怒ったり出来ていたら・・・)
「ったく、もともと兄貴とは気が合わなかったけど・・・あ、香澄ちゃん、私は気にせず、どんどんパフェ食べてね。ああ、でも、無理して食べなくて良いからね。お腹いっぱいだったら残しな。私が食べてあげるからさ。逆に、もっと食べられるなら追加注文して良いから!私には、何でも言ってね!」
あまりの早口に、最初と最後の言葉しか聞き取れなかった。しかし、癖でやはり頷く。