待合所でお迎えに来た人たちが駄弁っている。
翔子が目を凝らして彼らを見ると、透き通っている。今となっては自分も透き通っているのだけれども。
「お迎えに来た人たちの中に私もいたんだけど、迎え火でワープしちゃってね」
「その話、さっき聞いた」
そんな中、透き通っていない人がいる。それは孫の誕生を待ちわびつつ、翔子の回復を願っている翔子の父親であった。
父親が席を立つ。
父親のあとをついてゆくと、そこは集中治療室。
翔子の目の前で、翔子が眠っている。
「眠ってる自分を見るのは変な気分」
恵奈がベッドの翔子を指す。
「この体に戻ればあの世に行かずに済むよ」
「じゃあ早速、よっこらせ」
翔子が寝袋に入るように体に戻ろうとすると、恵奈はやおら出てゆく。
翔子は体に戻るのを保留して恵奈に追う。そこは陣痛室。
妹がたった一人で新しい命を誕生させるための痛みに耐えている。すっぴん、滝のような汗、鼻水、乱れた髪、口に入った髪、眉間のしわ、うめき声。まるで断末魔。
翔子は妹の腰をさすろうとするが、透き通ってしまって触れることすらできない。
するとトイレから母親が戻り、妹の腰をさすったりテニスボールで尻を押したりする。
翔子はただひたすら妹を見つめることしかできなかった。
ひゅーん、ぱん! 花火が上がる音がする。
翔子と恵奈は屋上にやって来た。
ひゅーん、ぱん! 花火が上がる。
恵奈が薄くなる。
「花火の煙で戻ることになっちゃった」
ひゅーん、ぱん! 花火が上がる。
恵奈は完全に消え、カランと老眼鏡が地べたに落ちる。
「おばあちゃん? おばあちゃん!?」
「何?」
声だけ聞こえる。
「まだいるんだ!」
「翔子、覚悟を決めなさい。新しい命と引き換えに自分の体に戻るか、それとも花火の煙であの世に行くか」
ひゅーん、ぱん!