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『おばあちゃん、故郷に帰る』永佑輔

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 商店街で和子の子供たちがラムネを飲んでいる。
「大きくなったね」
 優しく声をかけたはずなのに、永田翔子は不審がられて無視された。マンションにたどり着くと『禁止! ベランダでのタバコ、迎え火、送り火』という紙がマンションのエントランスに貼られている。
 どこかの住人がベランダで火を扱って苦情が出たのだろう。翔子は貼り紙を爪ではじいて、ちょうどやって来たおじいさんとエレベーターに同乗する。
 おじいさんは、犯人は俺ではないといった感じでわざとらしいため息。
「ベランダは火気厳禁なのに迎え火を焚いた人がいたんですって」
 翔子も犯人ではないという証明のために、そしてノーメイクの顔を見られないために眉間をおさえる。
「恥ずかしいですね、ルールを守れない人って。一体どこのどいつでしょう?」
「本当ですねえ。ところでアナタ、お付き添いの方は?」
「付き添い? 彼氏のことですか? アラサーですから当然いますよ。今日はたまたま一人ですけど、たまたま、本当にたまたま、たまたま」
 どこからどう見てもオーバーフォーティーで、指輪もしていなければ爪の手入れもしていないがちゃっかり見栄を張った。
 ふっふっふ、と笑っておじいさんは降りた。

「久しぶり、ただいま」
 翔子は玄関を開ける。
「ベランダで火を扱わないでください。去年も一昨年も、その前の年も言いましたよね?」
 両親が管理人に注意されていた。
「申し訳ございません。ついうっかり迎え火を焚いてしまって。送り火は焚かないようにしますので、どうかご勘弁を」
 ベランダで火を扱った恥ずかしいルール破りの住人は、翔子の両親だった。
 翔子は現役時代の朝青龍に見習ってもらいたいほど、これでもかというぐらい全身全霊で手刀を切りながら管理人と両親の間をそそくさとすり抜けてリビングにやって来る。
 線香の香りはお年寄りがいる家の専売特許だ。
「和子んちと良平んちもこんなニオイだったなあ」
 老猫のガタに言うと、スリスリと翔子のスネに体をこすりつける。ベランダに出たくて仕方がないよう。
 翔子はカーテンと窓を開けてガタと一緒にベランダに出る。
 風鈴が鳴る。
 ガタと蒲田を一望する。といっても低層マンションなのですぐそこまでしか見えないけれど。
「いつも通りだねえ。ねえ?」

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