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『おばあちゃん、故郷に帰る』永佑輔

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 ようやく永寿院までやって来た翔子は、ノーメイクの顔を洗い、墓に水をぶっかけ、花を買っていないことを恥じ、煙にむせながら線香を上げ、手を合わせるときにうっかり柏手を打ってしまい、きまりが悪そうに恵奈を一瞥し、まあいいかと目を閉じ、ぐぅと腹を鳴らし、頃合いだろうと目を開け、あの世に戻ったかどうか確かめてみる。
 恵奈はバッチリ存在している。
「そっちのお墓じゃない、こっちのお墓」
 よその墓に手を合わせていたものだからバツが悪い。翔子は仕切り直して、今度こそあの世に戻っているだろうと恵奈を見やる。
 恵奈は線香の煙とともに徐々に消えてゆく。
「おばあちゃん、バイバイ! おじいちゃんにヨロシクね!」
 翔子は手を振った。
 恵奈は徐々に薄くなり、ついに消えた。と思ったら、ただ半透明になっただけであの世に送られる気配はまったくない。
目をぱちくりさせる翔子。
 恵奈はしばらく逡巡して口を開く。
「宗教的な手段は諦めて、物理的な手段にしよう」
「物理的な手段?」
「高いところに行くんだよ。天国に一番近い場所に」
「それニューカレドニアのキャッチコピーじゃん。フランスの植民地じゃん。しかも仏教は天国っていうより、どちらかというと極楽とか浄土とか……それにフランスは仏の国って書くから、やっぱり天国って言うのは……」
 翔子の難癖などどこ吹く風の恵奈は、ぴゅーんと蒲田にひとっ飛び。
 翔子は電車でとんぼ返り。

 二人は落ち合って商店街を散策する。
 翔子は良平の弟夫婦がやっている店でカリントウの試食を手に取り、恵奈に差し出した。
 生前の恵奈は甘いものに目がなく特にカリントウが大好物だったが、今日は残念そうに眺めるだけ。
「入れ歯の調子が悪いから食べらんないんだよ」
「じゃあ私もいらない」
「翔子は食べて」
「帰ったら仏壇に供える」
 翔子はいつから洗っていないのか分からないシワクチャのハンカチにカリントウを包んでポケットに突っ込むと、前を見ていなかったために電柱に頭をぶつけそうになる。歩きスマホならぬ、歩きカリントウだ。
 恵奈が翔子の額を優しく撫でる。
「病院に行く?」
「ぶつかってないから大丈夫」
 翔子はぶつかったとしても病院に行くつもりはない。というのも今朝、すっ転んで頭を打ち、病院に行くハメになった。
 ところが健康のためには死んでもいいという感じの年寄りたちが怪我をしている翔子を一瞥しただけで、待合所の椅子を陣取ったまま譲ってくれなかったのだ。
 そんなわけで病院嫌いになりたてホヤホヤなのである。

翔子がラムネのビンを傾けていると突然、恵奈は歩みを止める。

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