「さて……これから、どうしようか」
何をしていてもつい、家族のことを考えてしまう。自分は家族に裏切られたのに……でも本当に? 何が正しくて何が間違いだったのか。そもそも家族って一体、何なのだろう。もう少しでわかりそうなのに、言葉にできないもどかしさを感じる。
今日子は歩きながら観覧車のことを思い出していた。とは言っても普通の遊園地にある観覧車ではなく、デパートの屋上に設置された小さな屋上観覧車のことだ。
今日子はJR蒲田駅の前まで来ていた。
蒲田駅と直結した東急プラザがまだ蒲田東急ビルと呼ばれていた頃、その屋上には外国の城を模した『お城観覧車』があった。懐かしいあの観覧車は、今でも存在しているのだろうか。
あの頃、コインを握りしめて屋上を目指した。誰でも遊べる公園の遊具とは違い、お金を払って乗る屋上観覧車は今日子にとって特別な存在だった。
買い物に来たとき、母にせがんで妹と乗せてもらうことはあった。
でもそうでないとき、例えばクラスの男の子にからかわれて泣きながら教室を飛び出した日、仲良しのお友達と口をきかなかった日、お父さんやお母さんからカミナリが落ちて大泣きした日。
そんなとき、今日子は誰にも内緒でここに来て観覧車に乗った。観覧車の窓からは蒲田の街並みが一望できる。ゆっくり一周すると、それまで持て余してしまうほど乱れていた心が不思議と落ち着いた。とても贅沢で満ち足りた癒しの時間。まるで魔法みたいだと思った。
その観覧車が、すでに撤去されて存在していなかったらどうしよう。
今日子は少し不安になった。けれども、とにかく自分の目で確かめてみたい。そう思いながら上りエスカレーターを乗り継いで東急プラザの屋上を目指した。
「観覧車……あった!」
果たして屋上観覧車は、今も同じ場所にあった。
すっかり様変わりしてもうお城観覧車ではなくなっていたけれど、今も現役で活躍している。ゲートには『幸せの観覧車』と書かれた看板が掲げられていて、チューリップの花を模したカラフルな九つのゴンドラが花曇りの空をバックに悠々と回っていた。
「観覧車、乗られますか?」
嬉しくて見惚れていたら、スタッフの若い女の子に声を掛けられた。
「はい。でも、大人一人で乗っても大丈夫ですか?」
そう訊ねた瞬間、なんだかおかしなことを訊いてしまったと後悔した。今日子は思わず下を向いて、照れ隠しの苦笑いをする。けれどもスタッフはそんなことはおかまいなしに、満面の笑顔を今日子に向けている。
「もちろん大丈夫ですよ。お一人様300円です。そちらにございます発券機でチケットを購入して下さいね」
平日の夕方だったせいか、観覧車の搭乗を待つ客は今日子だけだった。財布の中から硬貨を探して、恐る恐る自動発券機に入れる。出て来たチケットをスタッフに渡そうとしたとき、スタッフから思いがけない話を聞いた。
「あの……もしかして以前、この観覧車に乗られたことありますか?」