そういう風に見られて思わず姿勢を正してしまう。作ろって誤魔化し笑い。指差して、彼ですってバラして仕舞いそうに。
「いやっ、そう言う訳じゃないんですけど……」
彼も照れ笑いしながら直ぐに否定していた。
やっぱり。私はそう思った。
ここまで話してきて、実は自分が誕生日ですっなんて彼じゃなくても正直に言えない。
良かった。調子に乗ってバラさなくて。せっかく良い雰囲気だったのに、言ったらムスッと黙ってむくれるだろうから。
「じゃあ何か特別な日なんですか? 今日は二人にとって」と店員さんは訊き返してきていた。
探りも憶測もない。ほんの僅かに湧いた純粋な興味。悪意を全く感じないこういった質問は内心困る。
何かしらの答えを言わないと話が終えられない。
彼も若干の困惑に照れ笑いを交えて。少しうーんと考え込んでから答える。
「……そういった訳でもないんですけどね。以前に偶然通りかかって。ああ、そう言えばと幼い記憶が甦って。家族で来ていたなっと」
「懐かしさに駆られたんですねぇ」
「それもありましたし、ずっと家族で来ていたんだし……だから自分の新たな家族とも来たいって想いも湧いたんで、ですかね」
彼は笑顔で答えていた。
私も吊られ合わせ、愛想笑いを繕って店員さんに見せていた。
そこで私は固まった。
――ちょっと待って。新たな家族?
色んな意味があって込められていて。彼に訊き返すのも、驚いた顔もするのも、全部忘れた。
もうただその場は、愛想笑いを店員さんに見せ続けるだけで。
もう舞い上がって、言葉が詰まって、声が出せなかった。
会計も終わり、お店から出て駐車場へと向かう最中。
にやついてしょうがなかった、私は。
あの後、彼には突っ込んで聞けずにいた。何も聞き返せなかった。彼も定員さんが居なくなった後も、その話題には触れずにいた。
触れずにいたというか、あれはきっと口を滑らしたんだと。
舞い上がっていた気持ちが収まってゆくに連れて、それがわかってきた。
本当は言うつもりだったのかな。
でも外に出て、少し肌寒くも感じる夜風に吹かれて覚めてくると。
本当は密かにしていた想いだったのかなっと。
車まで戻る、仄明るい駐車場の中。
気持ち小躍りで左右に体を振る私。先に歩く、黙ったままの彼の背中。
「けっこう良いお店だったね」
自分でも声が上ずっていたのがわかった。でも、その心の浮つきを隠すつもりもなかった。
「そうだね」